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「僕も蛾の動きをそれほどはっきりと見ていたわけではありません。ただ、聴覚細胞は反応しなくても、超音波によって鼓膜は振動しているわけだから、圧迫感のようなものは感じていたのかもしれませんね。それと同時に特殊な現象が起こったせいで、何かがあったという印象が、意識の底に残されたということでしょうか。いずれにしても、公演の映像をチェックしている時に、アイスコーヒーのストローが超音波に共振してコーヒーを泡立てなかったら、真相に到達するのは難しかっただろうと思います。大野さんが非圧縮の音声を入れておいてくださったおかげですね。圧縮データでは超音波はカットされてしまいますから」
「それで、誰が音源に細工を?」
首を傾げながら尋ねる大野に、柏木は穏やかな口調で答えた。
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