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「『やまと歌は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける』」
「うん。『生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける』」
「確かに名文ですよね。でも、歌論の部分は?」
「あの〈上から目線〉はさすがにねえ、一体何様なんですかって、言いたくなる」
「やっぱり! 実は、私もそうなんです」
そう言いながら、翠はいたずらっぽく笑った。
大半の観客が席に着くと、照明は通路を照らすものだけになり、篝火を模した赤橙色のネオンライトが随所に灯された。空に月は無く、近くにビル街はあるものの、舞台の設けられた風景式庭園は樹木が豊かで、夏の夜の濃厚な暗闇が辺りを包み込んでいた。
程なく、『炎舞』にも描かれている、朱色に黒斑の入った後翅を持つヒトリガ(火取蛾)や、全身が美しい青緑色のアオシャクなどの大型の蛾が、篝火のまわりを舞い始めた。
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