炎舞(えんぶ)

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「では柏木さん、我々は一足お先に失礼します。倉田さんからうかがいたいことが色々とありますので。それと、藤花さんの自殺願望を裏付けるような日記や手記が残されていないか確認しておきます。遺書が見つかることだってあるかもしれません。長年(ながねん)夫であり同志であった相手が、単なる殺人犯として扱われるのをそのままにするような人物とは思えませんし……」  堂島はそう言い残すと、村田と二人で倉田を導いて舞台を去った。続いて大野が事件の経緯を伝えるために団員達のもとに向かうと、舞台上には柏木と翠の二人だけが残された。しばらくの沈黙の後、柏木は篝火のまわりに戻ってきていた蛾の群れを見つめながら翠に言った。 「速水御舟の『炎舞』が見たくなってきたな……。広尾の山種(やまたね)美術館が収蔵していたはずだ。翠さん、今度一緒に行きませんか?」 「ええ、是非(ぜひ)」  柏木とともに蛾の群れを見つめながら、翠は優しく微笑んだ。
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