炎舞(えんぶ)

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 舞台は四方を客席で囲まれていて、壁も花道もなく、演者の出入りは暗転(あんてん)を利用して行うようだった。舞台の高さは優に二メートルを超えていて、木製の台座を使って段差をつけて配置した客席のどこからでもよく見ることができた。  開演五分前を告げるブザーが鳴り渡ると、照明は通路の篝火だけになり、舞台は完全な暗闇に包まれた。やがて、人声と電子音がミックスされた音楽が場内に流れ出すのと同時に、舞台の四隅(よすみ)の篝火が点灯され、舞台の中央では、人の背丈を(はる)かに越えた紅蓮(ぐれん)の炎のホログラムがゆらめき始めた。  最初の舞踊は八人の踊り手による群舞だった。その中に主演の平塚藤花の姿はない。伴奏に使われている楽曲は、倍音(ばいおん)唱法(しょうほう)を駆使したスキャットに金属打楽器やキーボードシンセサイザーの電子音を加えた、西洋音楽とも民族音楽ともつかないユニークなもので、それに乗って八人がホログラムの周囲を(めぐ)るゆるやかな輪舞は、呪術的とも言うべき魅力に満ちていた。
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