炎舞(えんぶ)

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 踊り手の中で(こと)に目をひいたのは、塚本拓也という二十一歳の若者だった。中性的というよりは両性具有的な美しさの持ち主で、ファンの人気も舞踊団側の期待も高いのだろう。準主役に抜擢されたホープとして、パンフレットでも大きく紙面が割かれていた。  やがて舞台には塚本一人が残り、短いが充実したソロを踊った。そして、その踊りに誘われるように、舞台中央に設けられた(せり)を使って、炎の只中(ただなか)に平塚藤花が登場した。  観客は二人の官能的なデュオに完全に魅了され、陶然(とうぜん)と舞台を見守った。柏木が何より驚いたのは、藤花の踊りの軽やかさだった。以前、祖母が日本舞踊の名取(なとり)だという友人から、舞い手の技量は舞い終えた後の足袋(たび)の裏を見ればわかる。上級者は常に足の裏全体に体重が分散しているから、ほとんど足袋が汚れないのだという話を聞いたことがあったが、この名手は体重を消し去ることさえ可能なのではないかと思われた。
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