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ーーーーちりん。
「おばあちゃあん」
縁側に寝転び広げた画用紙のうえ、顰めっ面をした幼子の声が響き渡る。
小さく膨よかな手から、二つの色鉛筆が手放された。
「はいはい、なぁに?」
「これ、壊れちゃったよぉ。けずれない…」
孫娘の訴えに、老女は視線を落とす。
「ああ、電池が切れたんだね。
ちょっと待ってて………こっちで削ってあげる。」
「どっこいせ、」と言いながら本棚の横、黒く重々しい昔ながらの鉛筆削り器を手に取った。
「これねぇ、おばあちゃんが子供の時からあるんだよ、まだまだ現役……すごいだろ?
確かおばあちゃんが女学校に行く前に……」
ソワソワとする孫娘のうえで、風鈴がちりん、と音を鳴らす。
「ごめんごめん。…ほら、削って欲しい色持ってきな」
迷う事なく、二本の色鉛筆を差し出す。
「この色……珍しいねぇ、何を描いたの?」
幼子は祖母の問いかけに、ニカッと屈託の無い笑顔を見せる。
開けられた口の中、並びで歯の無い空いた隙間から、細い風が通りぬけた。
「あのねぇ、このまえ。動物園で見た、
パンダさん」
END
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