NO color 1/24

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お願いだ、やめてくれよ。 こんなこと、望んでなんかいない。 「本当にやめて欲しいのか?」 彼の声が耳に響く。 「強がるなよ。本当は嬉しいんだろう?」 「違う。嬉しくなんかない」 彼はとても自信のあり気な顔つきで、近づくと僕の顔をじっと見つめる。 「嘘をつくな、顔に描いてあるぜ? “ずっとこうして欲しくて仕方なかった”と。」 「違う」 深い深い、まるで冬の冷たい海底のような、漆黒の奥に揺れる強い眼差し。 鋭い針の先端のように研ぎ澄まされたその、まるで幾多の矢疵が刻まれた刃のような、尖る立ち姿。 ああ、どうして。 いつだって貴方はそんなにも、強く逞しく、深く力強く。 そこに存在しているのか。 「一人でいたいんだ、お願いだ。 頼むから、僕に構わないでくれ」 「そうはいかない。 お前は知るべきだ、いま、自分がどれほどに必要とされているのかを」 確かに僕は、生まれてこの方誰かに必要とされたことなど無かったかもしれない。 けれど、だけど、それでも。 僕はただここに居られるだけで良かったんだ。 それで十分だったんだ。 そう言い聞かせて生きてきたのに。 どうして。 「貴方には、僕以外にもたくさん居るじゃないか。 僕なんて、貴方の…何の役にも立てやしない」 「そんな事はない、もう、強がるのはよせ。」 そして勢い良く全身を鷲掴みにされるような衝撃が襲う。 闇の中で蠢くような彼の眼光にまるで捕らえられてしまったように、もう、何も考えられない。 「ほら、こっちにおいで……俺と一緒なら、何も怖くはないから」 ずっとずっと前から、それはいつからだったのか思い出せないほどに遥か昔から。 僕はずっと、貴方を見ていた。 ここからずっと動く事なく。 何度羨んだことだろう。周りのやつらを。 どれだけ貴方をずっと見ていたか。 情けないほどに。 「お前がいいんだ。 いや、お前じゃないとだめなんだよ。ほら、見ろよ?もう、こんなにも……。 俺はお前の身体を求めているんだ」 憧れて止まなかった、彼がいま、僕の隣で。 ああ、もう、戻れないよ。 「ほら、見ろよ。お前は、自分のことをもっと知るべきだ。 こんなにも、お前は……美しいというのに」 こんなにも、必要とされることの歓びを知ってしまうなんて。 まるで全身を揺さぶられるように強く、片手で身体を掴まれ、少し湿った指先で弄られ。 優しく、時に激しく、強く。 形取られていく。 僕という存在を証明する、いま、この瞬間。 「ーーなんて綺麗なんだろうな。 おまえの中に、すべてに、ほら。無垢で(きよ)い純白のそこに。 こんなに俺の色が入っていく。いいだろう? どうだ、(よご)されるのは、気分が良いかい?」 あまりの衝撃に、初めての経験に、言葉にならない。 今までに感じたことのないなんという、甘美な音の響き。 ああ、なんて、気持ちが良いのだろう。 こんな感触は、初めてで。 お願いだ。 もっと、この描き出された僕の分身に、その上へと。重ねて、混ざり合い、もっと。 貴方の色で、僕を染めて。     ああ、もうだめだ。 壊れてしまいそうだ。
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