空いてる席

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 校外から招いた専門家による特別講演。  支度をしていたら、開場の時間になるなり一人の学生がやって来て、並べたパイプ椅子の一番後ろの端に座った。  会場と同時に来るくらいだ。熱意はあるのだろう。しかしどうしてあんな隅に座るのだろうか。  最前列のど真ん中とまではいかなくても、もっと前に座ればいいのに。  そう思っていたら次学生が現れ、これもまた一番後ろの列の席に座った。  目立ちたくないとか、あまりにもやる気を漲らせているのは格好が悪いとか、そういうことなのだろうか。  少しだけ嘆かわしい気持ちでいたら、次に現れた学生が、会場に入るなり声を上げた。 「ええっ。もうこんなに人入ってるの?」  驚いた口調で言いながら、こもまた一番後列に座る。けれどもう、それを嘆く気持ちは私にはなかった。  私にはまだ受講者が三人しかいない会場に見えるが、彼らの目には、この会場はもうほとんど満席らしい。  彼らがあの位置を選んだのは、前を避けた訳ではなく、いち早く来たけれど前の方が埋まっているから、空いている後ろの席に座っただけだったようだ。  …どんなに目を凝らしても、私には満席になる程座っている面々は見えないけれど、彼らの反応が本物なら、今すぐ、追加のパイプ椅子を大量に並べた方がよさそうだ。 空いてる席…完
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