最悪な再会

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(うーーーーん)  そんな秋良は整った面差しから「素敵」「イケメンすぎだろ」と囁かれ遠巻きに見られがちだった。その為か2週間経った今も昼休憩の社員食堂で孤独にカツカレーを頬張っていた。 (お父さん、ご飯ちゃんと食べとるかな)  コップの水を飲み干すと窓の外をぼんやりと眺め、金沢駅発東京駅行きの新幹線を見送り富山でひとり暮らす父親に思いを馳せた。 「ねぇ、此処良い?」 「あ、はい」  秋良が席を立とうとするとその女性社員は「まぁまぁまぁ座んなさいな」と椅子の背もたれに手を掛けた。見上げると黒髪ストレートボブに真っ赤な口紅の溌剌とした笑顔、営業部係長の村瀬 寿(むらせことぶき)がトレーを持って立っていた。 「なに、伊東さんはひとりぼっち飯なの?」 「なかなか馴染めなくて」 「1人いるじゃん」  銀のスプーンは食券売り場に並んでいる他の社員より頭ひとつ分背の高い黒髪を指した。 「ーーー翔吾さまですか」 「あぁ、それそれ、翔吾。伊東さんに懐いているじゃ無い」 「揶揄(からか)われているだけです」 「ふーーーーん」  すると向かいに座った男性が日替わりA定食の鯖の味噌煮を箸でほぐしながら肩を(すぼ)めた。 「翔吾は俺さまだから伊東さんも大変だね」 「はい」  この男性社員は誰なのだろうかと首を傾げているとそれに気付いた村瀬寿が豚カツを頬張りながら秋良に向いた。 「あ、これうちの営業成績ナンバーワンの高坂、高坂壱成」 「ああ!申し込み用紙に不備の無い高坂さん!」  髪をオールバックに撫で付けた銀縁眼鏡の高坂壱成は誰かと違い誠実そうで落ち着いて見えた。 「そうそう、褒めてやって」 「いつもありがとうございます!助かります!」 「いえいえ、こちらこそいつもありがとう」  話に聞けばこの2人は同期で27歳、あまり仲が良いので左手を見たが高坂壱成の薬指に結婚指輪は無かった。村瀬寿は孤立している秋良を気遣い声を掛けた。それに付け加えて「高坂壱成はお買い得よ」と見合いの仲人さながら立板に水で話し続けた。 「村瀬、伊東さんが困っているから」 「そう?寿さまの見立てに間違いはないわよ」 「え、そんな」  高坂壱成は困り顔をしつつも満更(まんざら)でもない雰囲気だった。然し乍ら秋良の表情は浮かなかった。 「あ、ごめん。付き合っている人、居た?」 「その、男性とお付き合いした事が無くて」  村瀬寿は福神漬けをトレーに溢し、高坂壱成は鯖の小骨が上顎に刺さった。 「う、嘘ぉん」 「いえ、本当に、高等学校も女子校だったので」 「大学は」 「母親が居なくて家事に忙しくて」 「あーー、ごめん」 「いいえ」  その驚きの事実を知った村瀬寿は鼻息を荒くして高坂壱成を推し始めた。 「お客さま、お目が高い!」 「係長、お目が高いってなにがですか」 「高坂壱成はなかなか手に入らない一級品です、ぜひ!」 「は、はぁ」  秋良の浮かない顔に村瀬寿は不満げな顔をした。 「なに、片思いでもしてるの」 「そういう訳では」 「分かった、後はご両人に任せるわ!」 「ご両人、ですか」 「ふんが」  奥のテーブルでは翔吾が同僚と副菜を取り合いはしゃいでいた。秋良はその背中をため息を吐いて眺めた。
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