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その後、村瀬寿の紹介もあり秋良と高坂壱成の仲睦まじい姿が社内で散見される様になった。2人の間に恋愛感情が存在するか否かは明らかでは無かったが噂は一気に広まりそれは翔吾の耳にも届いた。
心の声A(え、なんで!)
心の声B(なにがですか)
心の声C(秋良って俺の事が好きなんじゃねぇの)
心の声D(え、そうなの?)
心の声E(知らんかったわ)
心の声一同(このままで良いのか!)
心の声一同(否!)
その翔吾だが通常なら軽い雰囲気で「なぁ、連絡先教えろよ」と言えるのだが特別な感情を抱いた相手に直接尋ねる事は躊躇われた。それはあの10月30日と同じく自分から行動する事に恥ずかしさを感じる厄介な俺さま気質がそうさせた。
「ねぇねぇ」
「なに」
翔吾は隣に座る年配の女性社員の書類に鉛筆を走らせた。
「あっ、ちょっとなにするの!」
「消えるって」
「で、なに」
翔吾は筆記で秋良の連絡先を尋ねた。
「なに、目の前にいるじゃない聞きなさいよ」
「しっ!」
「面倒臭い子ね、でも私は知らないわよ」
肩を落とした眉毛は八の字になり眉間に皺が寄った。そこで翔吾は秋良が席を外している事を確認し数人の女性社員に連絡先を知らないかと聞いて回った。然し乍ら誰もが口を揃えて知らないと答えた。
「伊藤さん」
「なんだよ」
背後にほくそ笑む姿があった。
「僕、知っていますよ」
「えーーー!」
それは毎朝毎朝、翔吾に頭を2回叩かれる眼鏡を掛けた気弱な男性社員だった。彼は此処ぞとばかりに勝ち誇った面立ちで椅子に座ると脚を組み大きく仰け反った。
「もう2度と僕の頭を叩かないと誓いますか」
「うぐっ」
「誓いますか」
「ぐっ」
「ち・か・い・ま・す・よ・ね」
「ぐっ」
心の声一同(誓え!その無駄なプライドは捨てろ!)
「メールアドレス、ご入用なんでしょう?」
「ぐっ」
心の声一同(高坂と秋良が出来ても良いのか!)
翔吾は清水の舞台から飛び降りた。
心の声一同(頑張った!俺、頑張った!)
翔吾は屈辱を感じたが秋良のメールアドレスを入手した事で騒つく胸の内をなんとか抑えて席に着いた。そして次はそのメールアドレスを携帯電話の画面でタップ出来るかどうか、エベレスト山脈級の難関が待ち構えていた。
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