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食堂ではやはり秋良と高坂壱成の話題で持ち切りだった。2人が交際を始めたとの事で女性社員が肩を落としていた。
(あれ、高坂ってそんなに人気あったか?)
自分以外眼中にない俺さまにとって高坂は対象外、耳を澄ませば女性社員がこの交際発覚で項垂れた相手は伊東秋良だった。中性的な魅力が堪らないのだと言った。
(そうか?女に見えるけどな)
親子丼に箸を付け、たくあんをかじりながら秋良の面影を思い浮かべるとなにかが引っ掛かった。
(どっかで見た事あるんだよなぁ)
中学校の同級生、陸上部のマネージャー、付き合った相手にいとうは居なかった。高等学校の3年間、伊藤は何人か居たが男子ばかり。就職を前後して別れた恋人は当然伊東秋良では無かった。
(いとう、いとう、いとう、いとう)
そこで翔吾の記憶の引き出しが音を立てて開いた。
「姉ちゃん!」
食堂の前後の席に腰掛けていた社員が振り返った。
(そうだ、姉ちゃんもいとうだった!)
8年前、聖マリアンヌ愛児園での再会を反故にした姉ならばこれまでの冷淡で無表情な塩対応も腑に落ちた。姉は10月30日の事を怒っているに違いなかった。
(しかも名前を忘れたとか、俺、馬鹿の極みじゃね?)
心の声A(いとうはいとうでも漢字が違うじゃないか!)
心の声B(そうだよ)
心の声C(親が伊東と再婚して伊東秋良とか!)
心の声D(そんな訳ある!?)
心の声E(ないよなぁ)
心の声一同(本人に聞くしかないか)
翔吾はLINE画面をタップした。
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