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翔吾が鬱々とした日々を過ごしていると、今度は秋良が悶々とする出来事が起きた。それは長期研修に出向して居た女性社員の登場、名前は三笠 美桜と言った。
「翔吾さま〜ただいま帰りました〜♡」
察するところこの砂糖菓子の様な22歳は翔吾推しの1人で熱烈なファンらしい。毎日手製の弁当を差し入れボディタッチもさり気無く「あ〜、肩、凝ってますね〜もみもみしますね〜♡」と肩を揉みながら豊かな胸をグイグイ押し付け目に余るものがあった。
「あれは、なんなのですか」
「気にしないでいつもの事だから」
「はぁ、そうですか」
秋良としては面白くない、思わず眉間に皺が寄り目尻が吊り上がった。隣の女性社員が一口サイズのチョコウェハースを手渡した。
「はい、ストレスには甘いものが一番よ」
「ストレス、ですか」
「般若みたいな顔してるわよ」
慌ててパウダールームに駆け込むと眉間のファンデーションがよれていた。高坂壱成との浮き名が流れようともやはり想い人は小学5年生の時から伊藤翔吾一筋、今更あの砂糖菓子に奪い取られるなど言語道断だった。
(ちょっーーーちょっと若いからって!)
ファンデーションを塗り直しデスクに戻るとバインダーが置かれていた。なんだろうと手に取ると出欠欄があった。
「歓迎会」
「そう、ちょっと遅くなったけど三笠さんも出向先から戻った事だし伊東さんの歓迎会をする事になったの。今週末の金曜日だけど空いてるよね?」
「行きます!」
実はその日は以前から観たかった映画の最終日で鑑賞する予定だったが秋良は出席すると即答し出欠欄に印鑑を捺した。
(こ、こうなったら酔いに任せて告白!)
「ーーすん」と冷静な印象を持たれがちな秋良は意外と肉食系女子の素質があった。再会したからには手に入れなければ!と密かに闘志を燃やし砂糖菓子を睨み付けた。
(あ、洋服)
然し乍らワードローブはパンツスーツのみ、秋良はファッションフロアに踏み入れると迷う事なくスカートに見えるベージュのワイドパンツを手に取った。
(口紅)
そして普段はマットなベージュしか付けないがシアーなオレンジの色味がかったベージュの口紅を新調し、小振りなプラチナのピアスも買った。
(翔吾、待っていなさいよ!)
これで臨戦態勢は整った。秋良は生まれて初めてのフェイスパックをしながら購入した服のプライスタグを切り取った。
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