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如何やって家に戻ったのか覚えて居ない。気が付くと翔吾はスーツを着たまま部屋の床に転がっていた。
(・・・・ん?)
襟元が涼しく首を締め付けていた紺色のネクタイが見当たらなかった。何気なく姿見を見遣ると首筋とワイシャツの襟になにか光る痕が付いていた。
「な、なんだよこれ」
指先で拭うと淡い桜色で粘り気のある物が付着した。
「口紅、口紅だよなこれ」
スーツのポケットやビジネスリュックの中を探したがネクタイは入っていなかった。念の為にマンションのエントランスまで見に行ったがそれは落ちて居なかった。
「起きたんか」
父親が言うには翔吾は「タクシーで帰って来た」と話し、その隣にはビジネスリュックを手にした可愛らしい女性が部屋まで付き添ってくれた。
「お、親父」
「なんや」
「その女、何色の服を着ていた?」
ゴクリと唾を呑んだ。
「あーー水色やったかな」
「み、水色」
「えらい胸のデカい女の子や。おまえの彼女か、ん?」
「違っ、そんなんじゃねぇし」
水色の服、ピンク色の口紅、豊満な胸、付き添ってくれた女性が三笠美桜である事はほぼ間違い無かった。
(俺は階段を降りて)
歓迎会の居酒屋を出たところまでは記憶がある。
(その後は、その後は?)
翔吾はミネラルウオーターをコップに注ぐと一気に飲み干した。
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