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月曜日の朝は憂鬱だが今朝は特に憂鬱だった。翔吾と秋良は互いの目を見ないようにデスクに座った。書類の受け渡しも顔を見ず「はい」「どうも」と言葉を交わすだけで内線電話も「伊藤さん、内線2番」「どうも」の繰り返しだった。
「なに、あんたたち如何したの」
こんな時、年配の女性は勘が鋭く思った事を遠慮なく口にする。
「え、別になにも無いですよ」
「はい、普通です」
「何処がぁ、歓迎会でなにかあったの」
(ありました)(あったんだよ)
翔吾と秋良は互いの顔を見て苦笑いをした。秋良としてはお持ち帰りされたのではないかという疑念、翔吾は何処かのホテルに連れ込まれたのではないかという疑念が脳裏で渦を巻いていた。
「はい、秋良ちゃんチェックお願い」
「はい」
そこへ新規契約の申込書を持った高坂壱成が満面の笑みを湛えて現れた。秋良は一瞬怯んだが笑顔を作ってそれを受け取った。
「わーーー今週、1件目の契約ですね(棒読み)」
「うん、そう言えばあれから如何だった?」
「ど、如何とは?」
翔吾の耳は大きく膨らんだ。
「痛く無かった?」
(痛く、痛く無かったーーーって、なにが痛いんだよ!)
「あ、はい。優しくして下さって嬉しかったです」
(やさ、優しくって優しくしたのかよーーー!?)
よく見れば秋良の頬は桜色に色付いていた。そんな衝撃の事実を目の当たりにして動きを止めた翔吾の隣に三笠美桜が例の如く手作り弁当を持って現れた。秋良がその姿を横目で見遣ると手には見覚えのある物が握られていた。
「翔吾♡わ・す・れ・も・の」
(しょ、翔吾ーーー!翔吾さまじゃないの!?)
秋良の目は大きく見開いた。
「え、これ俺のネクタイ」
(やっぱりーーーー!)
「翔吾ったら急いで、もう、やだ」
(なにを、なにを急いだのーーーー!?)
よく見れば翔吾は耳まで赤らめ鼻先を指で掻いている。これは秋良がよく知っている、翔吾が嘘を吐いたり誤魔化す時の仕草だ。
(ーーーーーー)
翔吾は弁当とネクタイを持ち、秋良は新規契約申込書を手に苦笑いをした。
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