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「な、なんだよ」
「高坂、おまえ何処に行く気だ」
「それは」
「秋良んとこか」
上背のある2人が廊下の真ん中で睨み合っている。行き過ぎる他部署の社員たちは壁際でその遣り取りを窺い見た。
「そうだよ、俺の勝手だろう」
高坂壱成は翔吾の手を振り払うと秋良が向かったパウダールームへと踵を返した。翔吾は再びその腕を掴むと高坂壱成に詰め寄った。
「勝手されちゃ困るんだよ」
「なにが」
「秋良は俺の女なんだよ」
一瞬、間が空き高坂壱成は「成る程ね」と両手を上げた。
「なに笑ってんだよ」
「歓迎会の夜、伊東さんを部屋まで送ったんだよ」
翔吾は高坂壱成のネクタイを掴むと眉間に皺を寄せた。
「やめろって、会社だぞ」
「くそっ、で部屋に入ったのか」
「仕方ないからね」
「なんもしなかったんだろうな!」
「さぁね」
「おまえ!」
心の声一同(殴っちゃ駄目ですーーー!)
翔吾の握り拳は高坂壱成の頬を掠めて空を切った。そこで高坂壱成は床に倒れ込みそうになった翔吾の腕を掴んだ。
「おっととと、気を付けろよ」
「離せよ!」
「離したら倒れちゃうよ、良いの?」
「クソっ!」
高坂壱成に支えられてようやく立ち上がった翔吾はその顔を凝視した。
「で、なんもしてねぇだろうな」
「してないよ」
「そうか」
「伊東さんの部屋で面白い物を見付けたよ」
「なんだよ」
「伊藤、おまえ不細工だったんだな」
「はぁーーー!?」
秋良の部屋には愛児園で撮影された写真が飾られていた。そこには天使の如く可愛らしい秋良と思しき女児と鼻の頭を真っ赤にした男児が写っていた。高坂壱成がフォトフレームを手に取って眺めると男児の右目尻にはホクロが有った。(この男の子は伊藤だ)秋良が翔吾に特別な感情を抱いている事は明らかだった。
「おまえ、整形したのか?」
「してねぇよ!」
「可愛くないにも程が有るわ」
そう鼻で笑うと翔吾の背中を押した。
「早く行けよ、おまえの女なんだろう?」
「お、おお」
高坂壱成は襟足を掻きながら営業部のフロアへと戻って行った。
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