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三共保険株式会社 翔吾
翔吾には高坂 壱成という好敵手が居る、ただしそれは翔吾が思い込んでいるだけで高坂壱成の保険営業成績は月間を通し1位、2位を独占し、翔吾は足元にも及ばない。
「俺さまが本気を出せばこんなもんじゃないぜ」
「いつ本気を出すんだよ」
「うるさいうるさい!顔なら俺の方が上だ!」
「顔面偏差値が高くてもその性格じゃ無理じゃないのか」
翔吾の俺さま気質は営業先でもその力を遺憾無く発揮し営業部に度々苦情が寄せられた。
「伊藤くん、ちょっと」
「はい」
その都度翔吾は直属の上司に呼び出されたが暖簾に腕押しで謝罪の言葉に重みが感じられなかった。その太々しさに管理職は頭を悩ませた。ただ営業部から他部署に異動させる程営業成績は悪くない。しかも根拠の無い偉そうな態度を頼りになると認識した一部の顧客からは人気がある。
「伊藤くん、いい加減学習してくれないか」
「はい!」
「返事は良いんだがな」
「はい!」
営業部の暴れ馬を御せる人間は居なかった。
ーーーー6月
人事異動の辞令が掲示板に貼り出された。
「富山支店からうちに異動して来るって」
「こんな時期に珍しいな」
「伊東秋良、なんだ男か」
「あいつと同じ苗字だな」
「あぁ、翔吾さまな」
「俺さまが2人になるとか勘弁してくれよな」
「それな!」
ところが秋良が出勤し自己紹介を始めると伊東秋良なる人物が常識を弁えた美しい女性である事が周知され下世話な前評判は一掃された。
ぽーーーん
(あーー、眠ぃ)
その頃、翔吾は運命の再会(本人は自覚なし)を果たすとも知らず大欠伸をしながらエレベーターのボタンを押していた。
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