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「もうちょっと新聞を広げてくれよ。じゃないと畳が汚れちまうだろ」
そして俺は束子を手に取り、大まかな汚れを落としてゆく。
早送り>>十五時間後。
「お前、今日は購買行くの?」
昼休みのチャイムが鳴ると、鋼太郎が俺の席までやってくる。
俺は先ほどまでの授業で使っていた教科書やノートを机にしまいながら答える。
「ああ、うん。今日はそのつもりだけど……」
だが、開けっ放しにされた教室のドアから、ちらりと小さな影が姿を覗かせる。
俺は思わず固まった。極娘だ。
「どうしたん?」
「あ、いや……購買は今日もやめとくかも」
「お前さ、ほんと三年になってからおかしいって。マジで大丈夫かよ」
鋼太郎は呆れたように吐き捨てて教室を出ていった。そしてやはり、廊下に身を潜める一年生の女子に少し驚く。
昨日は気分が悪くて保健室にいたと言い訳をしている。なお極娘のことは誰かの妹だと思っているようで、今のところ俺との関連性は疑われていない。
鋼太郎になら、ことのあらましを話せば理解してくれるとは思っているが、これを機に上条先輩のことを諦めるように諭されるような気がして、まだ言えていない。
俺は昨日と同様にクラスメイトの視線を気にしながら廊下に出る。
「あの……まだ何かあるの?」
やはり、身を屈めるだけで隠れているつもりの極娘は、びくりと肩をすくませる。
「あの……今日も、お弁当……」
またか。そう思った。昨日の一件でお詫びは済んだはずだ。
「とりあえず、ここじゃアレだし昨日の場所まで移動な」
だが、これはこれで好都合かもしれない。
ずっと気になっていたにおいや懐かしいの正体について訊ねる機会がこんなに早くやってくるとは思っていなかったからだ。
そして俺たちは愛と平和の像がやかましい裏庭へ移動する道中で俺は質問する。
「なんでまた作ってきたの」
「だって、あんなに美味しそうに食べてくれる人……はじめてだったから」そう言って極娘は申し訳なさそうに顔を伏せる。「迷惑……ですよね」
迷惑と言えば迷惑だが、こいつを傷付けるようなことをしたら、また部賀率いるシャドルー四天王に詰められるかもしれない。
いや、確実に詰められるし、次は命の保証が無いかもしれない。
「ちゃんと前見て歩かねえと危ないぞ」
そして裏庭に到着する。だが、昨日とは少しだけ様子が違った。
そこでは、見なれない女子がきょろきょろとポニーテールを振りながら何かを探すかのように辺りを見回していた。
タイの色は翠。二年生だ。
落とし物か何かを探しているのだろうか。
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