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俺は極娘からにおいや懐かしいが恋に繋がるメカニズムを聞きたかったのだが、必死に何かを探す姿を放ってはおけなかった。
すると、その二年生女子がこちらに気付くと、ぱっと表情が明るくなる。
てっきり、俺は探し物の協力を頼まれるものだとばかり思っていた。
「あ、朱のネクタイ! 昨日、ここで怖い人たちから一年生を守った三年生ですよね?」
は?
言っている意味がわからなかった。どらかと言うと、俺はシャドルー四天王から守られた立場で、守ったのは極娘だからだ。
「え……あ、うん」
どう答えていいのかわからず、言いよどむ俺に二年生の女子は続ける。
「昨日、帰りのホームルームで不審者が校内に侵入してたことを聞いて、あ、あの人だって思ったんです! あ、いえ、そうじゃなくて、実はクラス委員の仕事で資料を職員室に持っていく途中に二階の廊下からずっと見ていたんです! なんて勇敢な人だろうって!」
よく喋る子だ。そして俺は確信した。この子がここで探していたのは他でもない。俺であるということを。そして、致命的な勘違いをしているということも。
イチ高の教室棟は三階に一年生の教室、二階に二年生の教室、一階に三年生の教室がある。二階の窓からなら、そのように見えても不思議ではないかもしれない。
「いや、それは違うくて……」
俺が本当のことを話そうとすると、極娘が俺の制服の袖を引っ張った。
どうやら、こいつからしたら本当のことを知られたくないらしい。俺はそれっぽく口裏を合わせてやることにした。
「いや、まあ……一年生の女子が困ってたら助けてやるのは当たり前じゃん? ほら、俺は三年生で男子だし」
すると、極娘は安心したかのように俺の袖を離してくれた。
「やっぱり! 思ってた通りの人だ!」そう言って二年生の女子は俺と極娘を交互に見比べる。「ところで、お二人は、その……交際、されてるんですか?」
「え、いや……別にそう言う関係では……」
「あ、ごめんなさい! 私、キタオオジスミレと言います!」
俺が言い終えるより先に、二年生の女子は慌てて生徒手帳を取り出して俺に見せる。
字は北大路純恋と書くらしい。まるで暴走機関車のような女だ。
それにしても北大路――ここ帆樽市では珍しい苗字だが、どこかで見聞きしたことがあるような気がする。
「あ!」俺は思い出した。「北大路って、あの選挙ポスターの!」
「はい! 父は帆樽市の市議会議員、北大路紳道です!」
嘘だろ。市議の娘がいったい俺になんの用があるというのだ。
ただでさえ今、隣にいるのは帆樽市でも名の知れたヤクザの娘だというのに……。
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