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雨のにおい
今日こそ、俺は一連の出来事を鋼太郎に打ち明けると決めていた。
イチ高までの通学路を歩く足取りがいつもより重たい気がする。
俺の家からイチ高までは歩いて三十分弱かかるが、俺は自転車ではなく、なるべく徒歩で通学するようにしている。
何故なら、高校一年の梅雨の時期、その頃はまだ自転車通学だったのだが、傘差し運転をしているところを巡回中の警察官に注意されたからだ。
その際に、学校でも校則違反として六百文字の反省文を書かされた。
俺の他にも傘差し運転をしている奴はいくらでもいる。なのに、どうして俺だけ――と思いつつも、未だに雨の日に傘差し運転をして注意されていない奴を見ると、消化不良の理不尽さが込み上げる。
もしかしたら、なかには注意されても懲りない馬鹿がいるのかもしれない。
ともあれ、俺はたかが傘差しで反省文を書かされるなんて二度と御免なので、天候のような神のみぞ知るものは侮らず、こうして徒歩通学を続けているのだ。
今でこそ快晴で、天気予報アプリでも一部曇りの時間帯があるものの、雨の予報は無い。
だが、帆樽市の周辺は盆地になっているため、気候の変動が激しい。神様の悪戯で、いつ大雨が降ってもおかしくはない。
ましてや今は春だ。春の雨は油断ならない。
冬から春に季節が変わると、高気圧の中心が北日本に偏り、日本の南の海上に低気圧の前線が現れる。確か北高型だったか、そんな感じの気圧配置になるらしい。
この気圧配置は西日本や東日本に梅雨のように長く激しい雨を降らせることがある
これを春霖と言う。
どうして俺がこんなに詳しいかって? それは今朝の報道番組で知ったばかりだからだ。
そして俺は校門前で同じクラスの男子生徒と軽く挨拶を交わす。
いつも時間ギリギリに登校する俺とは違い、鋼太郎は小学生の頃にスポーツ少年団で野球をやっていて、朝練に慣れているため中学時代から登校時間がとても早い。
もっとも、本人は特に野球が好きでやっていたわけではないため、中学高校ともにずっと帰宅部仲間なのだが。
そして俺が教室に入ると、案の定そこには既に鋼太郎の姿があった。
「よっ、相変わらず早いな」
俺は鋼太郎に軽く手を上げる。
「お前こそ相変わらず遅いな。そんなんで将来漁師になんかなれんのかよ」
「火振り漁は夜にやるから夜型でいいんだよ」このやり取りも、これが決してはじめてというわけではない。「ところで今日、少し話しておきたいことがあるんだけど」
「何よ。昼休みでいい?」
「昼休みは……ちょっとまずいかも」
「お前さ……ここんとこ本当にどうしちゃったんだよ」
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