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全校生徒が集まる体育館で俺が欠伸を噛み殺しながら、去年も聞いたような話を聞き流していると、背中を肘で小突かれる。鋼太郎だ。
鋼太郎というのはいわゆるアダ名で、本名は金岡太郎。金と岡を繋げると鋼になること、太郎という名前は個性が薄いとのことで鋼太郎だ。
俺の苗字はおで始まり、鋼太郎はかで始まるため、中学時代から同じクラスになったときは出席番号が並び合うことから、今となっては気の置けない親友だ。
「どうよ、新入生に気になる子いる?」
振り向くと、そこには鋼太郎のにやけヅラがあった。
今年二年生になる学年と三年生になる学年、その前に新一年生たちがこちらに背を向けて立っているため、後頭部が並んでいるようにしか見えない。
「いねえよ。俺は今でも上条先輩一筋なんだよ」
「お前、まだそんなこと言ってんのかよ。相手は今東京にいるんだぜ? ここから東京まで新幹線でどれだけかかると思ってんだよ」
上条琴子。俺が憧れるひとつ上の先輩で、去年イチ高を卒業して東京の大学に進学した。
俺が東京の大学を志望しているのは先輩の後を追うためだ。つまり下心だ。
「そんなんじゃいつまで経っても彼女なんかできないぜ」
そう言う鋼太郎には、隣のクラスに梨夏という彼女がいる。
「じゃあお前、梨夏ちゃんが東京に行ったらどうするよ」
「うるせえ。付き合ってもない奴と一緒にすんな」
すると、俺と鋼太郎の私語がバレてしまったようで、担任から注意されると俺たちは黙って校長の話が終わるのを待つことにした。
そして入学式兼始業式が終わると、俺はめいいっぱい背筋を伸ばす。
イチ高は二年生時に成績別にクラス替えがあるが、三年生時は同じクラスのまま持ち上がりになる。俺も鋼太郎も同じく二組だ。
ここから新たな三年生の教室に移動し、課題の提出と簡単な連絡事項が終われば今日はもう下校するのみだ。
「どうせお前の成績じゃ上条先輩と同じ大学なんて無理なんだから、さっさと諦めて次の恋に進めよ」
それだけ言って鋼太郎は「梨夏が待ってるから」と、教室を出ていった。
彼女ができてから少し付き合いが悪い気がするが、それはそれで仕方ないことだと思う。
それにしても次の恋……か。
俺は、恋というものは頭でするものではないと思っている。心とかそんなロマンチックな話ではないが、恋というやつはきっと、別のどこかが反応するものだと。
もちろんそれは下半身の話ではない。
俺も配られたプリント類をまとめてスクールバッグに詰め込むと、それを肩に引っ掛けて教室を出る。
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