始まりの一学期

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「つまり……先輩の鉢巻きの……いえ……先輩のが、とても……とても懐かしいと感じたんです……!」 「は? 懐かしい?」  その子は鉢巻きを指でくるくると巻き取りながら、こくんと頷いた。 「えっとー、懐かしいから……何?」 「その……つまり……」すーっと息を吸って、そしてその子は言った。「ずっと好きでした」  は? においが? それとも俺が? ただ鉢巻きを貸しただけなのに?  俺が人差し指で自分の間抜けヅラを指すと、その子はこくんと頷く。  脳がどうとか嗅覚とか視床下部とか大脳辺縁系がうんたらで懐かしいから好きだ――ということらしい。  こいつは俺の顔と名前を知っていたのかもしれないが、俺はこいつのことを何も知らない。  恥ずかしそうに俯きながら両手の人差し指をちくちくと合わせる姿を見るに、眼鏡を外せば超絶美少女とか、そんなわけでは無さそうだ。  そして何より……こいつは、ヤバい……においフェチなんてレベルじゃない。  三年前の俺の鉢巻きを後生大事にずっと持っているような奴。  間違いない……変態だ!  早送り>>現在。  思い出した。俺はこの眼鏡っ子をヤベェ奴だと認定し、お茶を濁すようにして逃げたのだ。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! そんなつもりじゃなかったんです!」  俺は懇願するような視線を部賀に向ける。  そうしている間にも両足のコンクリートはゆっくりと固まってゆく。 「今さら泣き入れて許されるとでも?」  部賀は冷徹に言い放つ。  後頭部にジャガイモ、ニンジン、タマネギの三人の視線が深々と突き刺さっている。 「部賀さん」と、眼鏡っ子はこちらへ向かって歩いてくる。そして眼鏡の奥の眼光で部賀を睨み付け、力強く言った。「お願いです。これ以上やったら……嫌いになりますよ」  →To Be Continue!
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