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「いや、いいよ、お詫びなんて」
お詫びはいらない。これは本当だ。なんなら今後一切、俺に関わらないでほしい。
だが、極娘は一向に頭を上げようとしない。何か言わなきゃ駄目なのか?
すると部賀が馬鹿なことを抜かしやがった。
「貴様がいらぬと言うのなら、この俺の小指を以てお嬢に詫びるぞ! 第二関節までな!」
お前の指のどの関節までとか関係無しに、それは本当にいらない。
「部賀さん。そういうの……本当にやめてください。これは私の問題です」
部賀にたしなめるため頭を上げた極娘の頬には涙が伝っていた。
何やってんだよこいつら。
その瞬間、俺の中で何かが吹っ切れた。
「あんた、部賀とか言ったな。あんたこそこいつを泣かせてんじゃねえか。あんた、それでも本当にこいつのためって言えるのか?」
これでも昔堅気の漁師の息子だ。人生で初めて親父譲りの肝の太さに感謝した。
その言葉に部賀は衝撃を受けたようで、極娘に深々と頭を下げる。
「お嬢、申し訳ございません!」
いや、頭下げるなら俺にこそ下げろよ。
だが、もうこいつらのトチ狂った価値観に付き合ってやる理由も無くなった。
そう、俺はこいつらの言う義理だの筋だのを甘く見ていたのだ。
早送り>>現在。
「いや、先に行っといて」
俺は鋼太郎に言った。
「お前、いよいよ高校最後の年だからって無理してねえよな?」
「してねえよ」
鋼太郎は心配の表情を浮かべる。
「もしかして、上条先輩と同じ大学に受かるために根詰めすぎてんじゃねえのか?」
根どころか命詰められそうになったけど、よし。良い方向に勘違いしてくれた。
「まあ、そんなところかも」
「どうせ無理に決まってんだから、あんまし無茶すんなよ」
それだけ言って鋼太郎は教室を出ていった。廊下に身を隠す見知らぬ一年生の存在に少し驚きながらも。
俺はややクラスメイトの目を気にしながらも、極娘のほうへ向かう。
「何こそこそしてんだ?」
身を屈めるだけで隠れているつもりでいたのだろうか、極娘はびくりと肩をすくませる。
「あの……おべ……おべおべ……」
「おべおべ言ってねーで、何?」
「おべ……お弁当……」
「お弁当?」
俺が首を捻ると、極娘はこくりと頷く。
よく見れば、二人分の弁当が包まれたナプキンが握られている。
「作って……きました。あの、購買に行くのなら……別に、いいです」
そんなこと言われて、はい、いいですと言える奴がいるわけないだろ。こいつほんとにヤクザの娘か?
「こういうとこ、あんましクラスメイトに見られたくないんだよ。変な噂が立つと嫌だしな。場所変えようぜ」
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