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極娘の顔がぱっと明るくなる。
そして俺と極娘は裏庭のベンチに移動した。
ここは放課後の部活の走り込みの休憩によく使われるが、敢えて昼休みに使う生徒などほとんどいない。
愛と平和の像と書かれたスポ根マックスなポージングの青く錆びた男か女かわからない謎の銅像の主調がやかましいからだ。これを作った奴の美的センスを疑う。
「別にお詫びなんていいって言ったろ」
俺は思わずため息混じりになる。
「でも……筋は通せって、お父さんが……」
ヤクザの何代目組長様か知らんが所詮はお父さんね、と、俺は鼻で笑う。
「で、何作ってきてくれたの?」
俺の言葉に、極娘は思い出したかのようにナプキンをほどいて弁当箱を開ける。
驚いた。
まず一番に目を引いたのは、綺麗なだし巻き玉子だ。こんな綺麗なだし巻きはスーパーの惣菜コーナーでしか見たことがない。てっきり機械で作っていると思っていた。
「あの、好きな食べ物……知らないので、苦手な物があったら、ごめんなさい」
「あ、いや、だし巻き玉子……綺麗だなって思って」
「出汁を多めに柔らかく巻いて、まきすで形だけ作って冷ましながら固めるのがコツ……なんです。知ってたらごめんなさい」
「なんで謝るの。知らなかったわ、すげーじゃん」そして、爪楊枝で刺された謎のおかずが目に留まる。「それ何?」
ひとつはミートボールとキュウリの串刺し、もうひとつはキャンディチーズとプチトマトの串刺しだ。
「これは……ピンチョスです」
「ピンチョス?」
「はい。ピンチョス」
そんな当たり前のように言われてもピンチョスなんて知らねーよ。
とりあえず俺はまず、様子見にミートボールとキュウリのピンチョスとやらをつまんで口に入れてみる。
そう言えば、いただきますを言ってない。親父の前だと絶対に怒られている。
「あ、すまん。勝手に食って……」
だが、ミートボールとキュウリの組み合わせが絶妙にうまい。
「どう……ですか?」
と、小首を傾げる極娘。
「いや、うまいよ。悪いな、いただきますも無しに食っちまって」
「食べてくれるだけで……嬉しいです」
そう言って極娘は両手の人差し指をちくちくと合わせる。
これが癖なら、まるで小動物みたいな癖だ。
「まあ、この程度のお詫びで済ませてくれるなら、俺としても悪くはない」
俺はとっくに気付いていた。こいつは笑うと意外にも可愛いことに。
だが、失礼ながらも女性に属性付けするとしたら、こいつと上条先輩は正反対だ。
上条先輩は背が高くてスタイルが良いが、こいつは決して高身長ではない俺の肩くらいの背で、体型もどこか幼さを感じる。
どこがとは言わないが。
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