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005 パフェはシェアすればいい!
「おはよう」
俺はクラスの友達に挨拶をして席に着く。
俺が自分の席に座ると、俺の耳には、目の前の方で話している女子生徒の雑談が入り込んでくる。
「今日、電車込んでたよね」
「そうそう、込んでた。なんでだろうね」
「ところで、英語の宿題やって来た?」
「うん、もちろん!」
「和訳難しかったよね」
「わかる~」
……ん? 君たちは何を話しているのかな?
なんか、英語がどうとか聞こえた気が…………あ゙っ、しまった。そう謂えば、プリントの和訳をしてこいとか、そんな事を先生が話していたよな。
和訳アプリにぶっこめば……って、意外と制度低いからダメか。
……まずいぞ、英語は一時間目だ。
誰か、宿題を見せてくれそうな人は…………って。はぁ、あいつしか居ないか。
俺は肩を落としながら、クラスの角に座っている、幼馴染みの横山ヱルの元へと上履きを進める。
「……よぉ、ヱル。おはよう」
「…………なに、気持ち悪いわね。一緒に登校してきたじゃないの。今更お早うも、何も無いでしょう」
ちっ、流石は幼馴染み。感が鋭い!
「……いゃ……大した事じゃないんだけと、ヱルって、英語の宿題とか、やって来たりしている?」
「そりゃまぁ、って、あんたまさか忘れたの?」
俺がテヘヘと情けない顔をすると、ヱルは大きなため息をついた。
「……で、私に何の用かしら?」
くっ……、女ってやつは俺の要件を知っていながら、敢えて聞きやがる。
サドか!
まったく、何かにおいて序列を付けたがるのが女の嫌なところだ。
「何その顔? 何か云いたげねぇ?」
ヤバい、心が読まれた。
「いゃぁですね、ヱルさんが、喉乾いていないかなぁと思いまして。でしたら、是非小生に買わせて頂きたく。そこで、もし、もし、宜しければ宿題など見せて頂ければなぁ~って思いまして」
「…………随分気持ちの悪い喋り方するわね。それにセリフ長いし、日本語おかしい……」
くっ、いやみったらしい。
「まっ、いいわ。ほら」
そう言うと、ヱルは机の引き出しの中から一冊のノートを取り出した。
「ありがとう」
俺は手を出し、そのノートに触れようとした瞬間、ノートは俺の手をするりとすり抜けた。
そして、ヱルの胸元へと移動し、両手でしっかりとガードされてしまうのだ。
「そういえばさ閃貴、私、最近できたモコモコ・カフェのパフェが食べたいのよね」
くっ、ジュース如きでは貸さないと云うのだな。
しかし、ここは背に腹は代えられない。
「ゎ、わかったょ。パフェ奢ればいいんだな」
「さっすがは閃貴! 分かってるじゃない!」
しかし、ここで思わぬ伏兵が現れた。
「な~に、な~に、モコモコ・カフェのパフェの話? 私も入れてよ」
そう、うちのクラスでトップクラスの美貌を持ち合わせた正木聚楽だ。
ヱルとは同じテニス部なので、二人は良くつるんでいるようだ。
「もしかして、二人でデートのお話だったりした? 私お邪魔だったかしら?」
「ジュ~ラァ~、そんな訳ないでしょ。こいつとは、家が隣ってだけよ」
「その通り。俺がこんなちんちく娘とデートなんてあり得ないでしょう。それより、正木さんも一緒に行きません?」
「そうね~、確か今日は部活なかったしね。いいわよ、私もパフェ食べてみたかったし」
俺は二人に見えない様にガッツポーズを決めた。
「あらぁ~、閃貴。さっき私と行くって時より、顔色が良いんじゃないの?」
「んなわけ、あるか。さっ、宿題、宿題!」
俺は、不穏な空気へと流れが変わったのを察知して、その場を去る事とした。
● ● ●
「いらっしゃいませ~、モコモコ・カフェへようこそ! お客様は3名様で宜しいですか?」
「いぇ、先に友達が来ているので……」
「あっ、伺っております。ご案内しますね」
俺は結局、ヱルと正木さんの3人でモコモコ・カフェへと来ることになった。
まっ、余計ないのが一人ついてきたが、クマのぬいぐるみとでも思っていれば、中々の幸運とも謂える。
正木さんとはクラスにいても接点が無かったし、これを機会にお近づきできれば、ゆくゆくは俺にもワンチャンあったりするか?
そんな妄想に耽りながら、俺は前を歩くヱルの後を付いて行った。
「ヱル~、ジュラ~こっちこっち」
……ん? なぜうちらを呼ぶ声が?
そういえば、入口でヱルが先に友達がいるとかどうとか云っていた気がする。
つい、正木さんと一緒に来られたので、クマのぬいぐるみの会話など聞きそびれてしまったわ。
…………って、あれ? 既に3人女子がいる。
あれは、確か他のクラスのテニス部員だったかな?
「みんな、お待たせ~」
……ヤバイ、急にアウエーになった。
正木さんとお話しできればラッキーくらいだったのが、なんだ、なんだ? 急に居づらくなったぞ。
もしかして……、これは。ヱルの差し金か?
「ほら、閃貴、座って座って。詰めて詰めて」
俺はヱルに急かされながら、窓を背にする、長椅子に座った。
しかし、……あれ?
現在我々は6人いる。
当然、6人掛けテーブルとなるのだが、俺の左には、知らないテニス部員。左前も、正面も知らないテニス部員。で、右前に正木さん、右隣にヱル。
あれ? おれ、囲碁で云うならば、死に石状態じゃないか?
つーか、めっちゃ、居づらいんですけど。
俺は息苦しさのあまり、軽い脳震盪を起こしそうだった。
「みんな、今日はゴメンね。私の幼馴染が、どうしても『ハーレムを体験したい』って云うから付き合わせて」
はぃぃぃいいいい!!!
んな事、一言もいってねぇええええええ!!
はっ、図ったな、ヱル!
俺は、睨み付ける様に右を見た。すると、素知らぬ顔で口笛の吹きマネをしているヱルの顔がそこにはあった。
ふぅ~……。落ち着け、俺。
ここで慌てては、ヱルのフローチャートに流されるだけだ。
ここは1つ、なんでもないを装うのだ。
「初めまして、尼崎閃貴といいます。別にハーレムを作りたいなどと云った記憶は無いのですが、何を勘違いしたのか、俺の幼馴染が皆さんにご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません」
ふっ、無難な挨拶だ。
これで、俺の誤解も解けたことだろう…………な~んて思った矢先、俺の目の前にはトランペット、いや違う、巨大なパフェが置かれた。
なっ、なんだこれは!
「こちら、当店名物のエレファント・パフェになります」
えっ、エレファント、パフェ? でかっ! 誰だこれ頼んだの。
つーか、このパフェのデザインは象の顔を模しているのか? にしても、多分鼻なんだろうけど、パフェに刺さっている丸々一本のバナナがなんか卑猥だ。
軽く驚いている俺を他所に、女子達は待っていましたと云わんばかりにスマホを取り出す。
「バエル、バエル!」
「一緒に撮って!」
「インスタあげよ~っと」
「あっ、閃貴。これ、あんたの勘定だから」
「マジでかい!」
……おぃ、なんかどさくさに紛れて、怖い一言がなかったか?
俺は、女子が撮影に夢中となっている隙に、メニュー表を手に取った。
…………エレファント・パフェ、エレファント・パフェ…………5,000円。
…………はぃ?
先程、あんたんぽん幼馴染は、俺の勘定とか云ってたか?
値段を見て軽く眩暈がした。
大きさもビッグだが、値段もビッグだぜ。トホホ。
机に片肘を付いて、おでこを抑えていると、ヱルが俺の頭を柄の長いスプーンでコンコンする。
「はぃ、これあんたの」
俺は、ヱルの声に反応して、顔を上げる。
すると、既に女子達は、各々巨大パフェをつついて、果敢にも掘削作業に勤しんでいた。
「おぃしい!」
そんな声が上がる中、俺はヱルのから受け取ったスプーンを使えずに、ただ周りの女子が食べているのを見るだけだったのだ。
俺は目の前にある巨大パフェを四方八方からつつく女子を見ながら、なんとも蟻が砂糖に群がっている様に見えていたのだ。
しかし、そんな俺を見かねてなのか、左となりに座っている、テニス部員が俺に声を掛けて来た。
「閃貴君、食べないの? ほら、あ~ん」
「あ~ん」
ぱくっ。
ん、美味しい。とはいえ、これで5,000円かぁ。1個売れば4,000円は儲かるよな。
「ずる~い、私のも食べて、はいあ~ん」
「あ~ん」
ぱくっ。
もぐもぐ。
ところで、この器ってどこで売っているのだろう。
もはや花瓶と呼べるサイズだ。
もしかして、実は花瓶だったりするのか?
「……き、……せんき、……こら閃貴!」
「ん? あぁ、悪い」
右隣りに座っているヱルが俺に声を掛けているのに、全く気が付かなかった。
考え事をしていると、つい耳に言葉が入らない。
どうもこれは、俺の悪い癖だ。
そんな事を思いつつ、ヱルの顔を見ると…………あれ? なんかご機嫌が、斜めってません?
「あれ、ヱルどうしたの? そんなに目を吊り上げて」
「どうしたのじゃないわよ! なに他の子からあ~んってされているのよ!」
「他の子からあ~ん? …………あぁっ!」
しまったぁぁぁ。考え事をしていたから、口を開けろと云われたので、云われるがままに口を開けていたぁ!
あれ、俺何回パフェ食べた?
「いぃから、あんたは、私のだけ食べておけばいいのよ!」
そう云いながら、ヱルは象の鼻の部分にあたる一本バナナを俺の口に放り込んだ。
「もごもご、うごうごはごごご……(まて、そんなに一気に入らない)」
そんな俺達のやり取りを、ヱルの前に座っている正木さんは涼しそうな目で見ていた。
「ヱルの愛情表現は、中々情熱的ね。フフフ」
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