第二章 再会の約束

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第二章 再会の約束

 あれから七年の歳月が経ち、桜の満開の季節に愛娘の由香は小学生になった。今は亡き祐介に似て、口も達者で怖いもの知らずの無邪気な少女に育っていた。  由香は小学校からの帰宅後、疲れ果ててすぐに眠りについた。彼女が私の胸に寄り添い、安らかに寝息を立てる姿に、私はひとりの寂しさを感じた。  不思議なことに、桜の淡い花びらが舞い散る白昼夢の中、祐介が現れた。彼は私を慰めるかのように、優しい笑顔で声をかけてきた。 「百合子、起きてるかい? 二ヶ月後に梅雨が訪れると同時に、僕の七回目の命日もやってくるんだ。もう一度会える機会をもらえたのさ」  祐介の声は、七年の時を経ても変わらず爽やかなものだった。彼の命を奪った大嫌いな梅雨時に、思いがけず、八王子の奥地に佇む神聖な『黄泉ヶ淵』での再会が叶うという。私はあの日以来、雨をずっと憎んできたというのに。 「祐介、本当に会えるの? 私も会いたい」 「由香も小学生になったんだろう? 少しくらいなら歩けるよね。僕も愛する娘に会いたいんだ」  彼は娘が生まれたことをしっかり覚えていてくれた。彼は我が子にまだ会っていないというのに、彼の深い愛情を感じると、私の目頭が熱くなった。祐介との再会を心待ちにしながら、彼の命日が近づくのを待った。  彼の背後には、翠雨に濡れた青葉を優しい風が揺らす、晴れ渡る空が広がっていた。瑞々しい渓谷の木々から差し込む柔らかな光と、川のせせらぎが心地よい余韻を運んできた。彼は、私と娘に会いたくて、もうじっとしていられないと告げにきたのだろうか……。この世のものとは思えぬ景色が、目の前に広がっていた。
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