第四章 神秘への扉

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第四章 神秘への扉

 見知らぬ異世界の山道に迷い込んでいた。一瞬、恐怖が心をかすめて、元来た道に引き返そうかと迷った。その時だ、突如、「ぶおぶお」と神秘的な笛の音が静寂を切り裂いた。  思わず、私は身をすくめ、周囲を警戒の目で見回した。そこには、靄を追いはらう鈴の音色と共に、弓矢を携え、布製の帽子をかぶった修行僧たちの行列が、幻の疾風に乗るように現れた。 「ママ、あのカッコいい人たちは誰?」  娘は怖いもの知らずの性格を覗かせるように、興味津々で尋ねた。 「静かにして。それは忍者みたいな修業を積んだ山伏よ。不思議な力を持つお坊さんたち。でもね、怒らせたら大変。深い川底に沈められるんだから」  私はその場の思いつきで娘に言い聞かせた。でも、由香は私の脅しに動じることなく彼らの姿を羨ましそうに見つめていた。彼らは森の道先案内人のように奥へ奥へと進んでいった。  しばらく歩くと三叉路に差し掛かり、赤いエプロンをまとった地道祖神が門番のように立っていた。ところが、古めかしい祠が雨露をしのぐ姿を目にした瞬間、何かが変わった感じがした。前へ進もうとした足は、見えない力に縛られたかのように、微動だにしなかった。  まるで魔法陣に守られた聖域へと足を踏み入れたごとく、そこで立ち尽くすしかなかった。  一方で、由香は何事もなかったかのように、天真爛漫な笑顔を浮かべ、「ママ、どうかしたの?」と首をかしげながら私を振り返る。子どもたちは、本当に神秘的な存在だ。  森の入り口は、ほんの序章に過ぎなかった。日が暮れる前に、愛する祐介に再会すること。それが私の唯一の願いだ。だからこそ、どんな困難があろうとも、私たちは前に進まなければならない。
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