上の階

　ずっと空室だった上の階に住人が入った。
　階が違うので部屋に入るところを見た訳ではないが、上から足音などの生活音が聞こえるようになったので、誰か入居したのだろう。
　人がいる以上、音がするのは仕方がない。とはいえ、度が過ぎるとさすがにこちらの生活に支障が出る。
　はっきり言ってとてもうるさい。だから大家に苦情を入れてもらうことにした。
　そうしたら、上の階に人は入ってないと言われた。
　そんな筈はないと訴えたが、入居者はいないの一点張りで話にならない。なので俺は、上の階に隠しカメラを仕掛けることにした。
　もちろん部屋には入れないが、仕掛けたカメラで出入り口付近を撮影することは可能だし、窓の方も、頑張って、バレないように上の階が映るようカメラを仕掛けた。
　大家を疑っている訳ではなく、もしかしたら誰かが建物内に不法侵入し、勝手に部屋を使っているのかもしれない。もしそれが犯罪者だった場合、住人が巻き込まれて危険な目に遭う可能性もある。だからあくまで、カメラを仕込んだのは防犯のためだ。
　リアルタイムで画像を見れるカメラではないので、物音が激しかった翌日、仕掛けたカメラを回収して何が映っているのか確認した。
　あれだけ下に音が響いてたんだ。もしかしたら複数人が部屋に出入りしている可能性がある。
　そう思って映像を確かめたのだが、そこには人の姿は一切なかった。
　もしや、上の部屋の隣の住人が抜け穴でも作って、隣室まで勝手に使っているのか？　そんなことも考えたが、壁の材質的に、誰にもバレずに穴を開けたりするはさすがに無理がある。
　だったら、響いてくる音の方が気のせいなのか？　いや、そんなことはない。毎日何かしら物音は聞こえるし、時にはかなりの騒音の場合もある。
　諦めきれず、再びカメラを仕掛け、物音がやたらと響いた翌日に回収して映像を見た。
　その時に見つけたんだ。窓の方に仕掛けたカメラ。そこに黒っぽい靄と光の玉か混ざったようなものがたくさん映っているのを。
　結論から言うと、上の階に入居者はいなかった。ただ、侵入しているものがいた。…人間ではない『なにものか』が。
　そいつらの立てる音が日増しに大きくなっていく。もうカメラを設置して確認することはないけれど、あれは日ごとに数を増しているのだろう。
　あいつらが、上の階の一部屋以外にはみ出してくる前にここを出よう。
　その思いで、今は俺は、必死に他の優良物件を探している。

上の階…完