鎌倉以上、江ノ島未満

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 そして、三人目。ここからが本題である。  雨霧晴菜(あまぎりはるな)とのファーストコンタクトは大学入学からそう日も経たぬ四月下旬、昼休みを利用して行われたサークル説明会でのことだった。  ふだん講義で訪れている三号館一階のとある一室。年季の入った片開きドアを抜けるや否や、そこには数にして二、三十人ほどの新入生の姿があり、初っぱなから僕は圧倒されてしまった。新品の五円玉さながらのド金髪に、くるんくるんの巻き髪に、ラリパッパなドレッドヘア。男女比はおおよそ半々くらいであろうか。  友人のつきそいでやって来たのはいいものの、小心者で内向的で、さらには大学デビューから日も浅いジャリボーイにとってそこは、言わば伏魔殿そのものであった。  内心で盛大に震え上がりつつ、それでいて精一杯の平静を装い、窓際後列の空席にどさりと腰を下ろす。当サークルを牛耳る上級生連中はまだそろっていないらしい。新入生らの楽しげな声がそこらかしこで響いている。  ここで、よせばいいのに隣の友人──彼は既述した、のちのバスケサークル副部長である──が、僕らの一席前にぽつんと座る、ゆるふわガーリー系女子になんの気なしといった装いで声をかけた。 「お姉さんも新入生だよね? 何学部?」  あわわわわわ……。  友人の、突然の軟派極まりない行動にまるで液体窒素でもぶっかけられたかのごとく凍りつきながら、片や一方でパーティクルな下心をむくむくと萌芽させる僕。彼の発した軽薄な一言に、テレビドラマで言うところの第一話的展開を期待せずにはいられなかったのだ。  グッジョブ! マイフレンド!   僕の変わり身の早さといったらなかった。コンマ数秒の迅速さでキメ顔を作り込むと、烈々たるビートを刻み始めた鼓動と共に対象を待ち構え、 「あ、ええと……」  爽やかな柑橘系の香りと共にこちらを振り向いたグレージュのロングヘアが、やや控えめに口を開く。 「経営学部です」  耳朶に触れたのは、気の抜けるような、実にほにゃほにゃとした声だった。そのいささか心地よい周波数は、彼女の柔和な雰囲気にとてもマッチしていた。  忘れもしない、これが晴菜との出会いの経緯である。
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