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説明会終了後、いまでは名前も思い出せないような腐れ飲みサークルへの入会を思いとどまった僕ら三人は、別れ際に連絡先を交換し合った。誰とはなしに、ごく自然な流れでそうなった。
友だちリストに追加された雨霧晴菜のプロフィール画面には、古いSF映画の有名なワンシーンがアイコンとして設定されていた。この作品に何か思い入れでもあるのだろうか。彼女のパーソナルな部分に興味を抱きながら、また彼女に関する妄想をあれこれと膨らませながら、しかしそれでいてこちらからメッセージを送ることはめったになかった。
実は当時、僕には恋焦がれ、一方的に思いを寄せている女性がいた。阿佐ヶ谷を拠点とする小劇団に所属する役者志望の女の子。アルバイト先のシネコンで出会った、盛岡出身の、三つ年上の先輩だった。
ここだけの話、僕は中野サンモール商店街を一往復するまでのごくわずかな時間に計四度の一目惚れを経験したことがある。それだけ惚れっぽい人間だということを理解したうえで聞いていただきたいのだが、つまるところ僕は、晴菜に気持ちが傾いてしまう可能性を危惧し、必要以上に彼女に深入りしないよう自制していたというわけだ。
ただでさえ晴菜は、僕好みの女の子だった。教室の隅のほうに何人かで固まっていそうな地味な存在ではあるけれど、大人になったとき、意外とあのコかわいかったよなあ、なんてふと思い出しては感慨に浸ってしまうような、しごく絶妙な面立ちの薄顔美人だった。
だからこそ僕は、晴菜との距離感を徹底した。一定のハートディスタンスを保った。
同い年、バンド経験者、映画趣味といった三点の共通項のみでつながった男女二人の関係性は、密になることもなければ疎遠になることもなく。そして気づけば一年、二年とあっという間に日々は過ぎ去っていった。
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