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「たっくん!この水たまりは、魔法の国の入り口ですぞ。」
たっくんは、ママに言われるまま覗き込んでみたけれど何にも見えない。
「ママ、ドアなんかないよ?」
たっくんは不思議そうに、彼に寄り添ってしゃがみ込んでいるママとパパを仰ぎ見た。二人は顔を見合わせて、微笑んでいる。
「たっくんは、まだまだ子どもだから、この入り口は使えないんだよ。パパだって、ママと一緒にやっと入り口に辿り着けたんだからね。」
「パパとママだけ?ずるいぞぉ。たっくんだって入りたいもん!」
あっちはどうかな、こっちはどうかなと、たっくんは次々と水たまりを覗き込んでは、魔法の入り口を探している。
そんなたっくんを見守りながら、二人は手を繋いで一緒に水たまりを覗き込んだ。
「うわぁ、タイチ君!雲が流れていくよ!」
「そろそろ梅雨明けかな?雲の色が変わってきてるね。」
「あー!パパ達だけ、ずるいぞ〜!!僕も入れてよ〜!」
こっそり水たまりを覗き込む二人を見つけて、たっくんが駆け寄ってくる。
もうすぐ、雨の季節が上がって夏が来るんだ。
タイチは、いつものようにずり落ちかけたメガネをかけ直して妻を見た。妻もいつものように、その仕草を愛おしそうに眺めて微笑んだのだった。
了
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