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「おいしい、おいしい......です」
涙があふれてきた。
ヨコクチさんがテーブルの上を歩いて僕のそばまできて、肘を前足で掴んで
心配そうな顔で見上げてきた。
「ごめんなさい。僕、おいしいと辛いんです。
彩が、愛する人が死んでしまって、それなのに僕は生きていて。
おいしいものを、僕だけが口にするのは、申し訳なくて......」
「そうでしたか。あなたは優しい人だ」
モース博士の言葉に僕は首を振った。
そして彩について話した。
モース博士は、ゆっくりと、じっくりと、聞いてくれた。
ヨコクチさんは泣いていた。
「悠乃さん、心の傷は簡単には癒えません。
あなたには休息が必要だ。けれど生活費は、どうです?」
「それは、貯蓄はありますが、このままだといずれは......。
それに、家のローンを支払わないと」
「ならばどうですか、うちの店で働いてみませんか?」
「え?」
「ちょうど店員が欲しいと思ってたところなんです。
私とヨコクチだけで経営しているので、大変なんですよね」
「でも、僕は食事を取らないから、あまり動けないし、
それに、何かをする気力は無くて」
「お茶、ひと口、飲んだでしょう?」
「え?はい」
「ひと口でも、身体は動き、やる気は起きます」
「えぇっ?」
「私は発明家ですからねぇ、それも発明品のひとつ」
モース博士が丸眼鏡の奥から不敵に微笑んだ。
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