悠乃優也

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バスタブの湯舟に浸かる。 ヨコクチさんが犬かきして泳いでいる。 どうやらうちのバスルームが気に入ったらしい。 洗面器の上に乗せて、ボディシャンプーで洗ってあげてみた。 そしてシャワーでゆすぐあいだ、目を閉じて気持ち良さそうにしていた。 僕に赤月以外の友達ができた。 とてもなごやかな気分だ。 こんな気持ちは、いつぶりだろうか? 彩とのまぶしい日々以来だ。 彩、僕はいま、少しだけ日々に安らぎができたよ。 これって、いいことなのかな? 「あっ......」 モース博士は言っていた。 『ヨコクチは悲しい体験をしているのです』 と......。 「ヨコクチさん、ヨコクチさんも悲しいの?」 ヨコクチさんが僕を見上げたあと、うつむいた。 「ねえ、ヨコクチさん。僕は生きていくって辛いものになってたよ。 だけど、だけどね、ヨコクチさんと入る風呂は心地好いよ」 ヨコクチさんが再び顔を上げた。 「ねえ、ヨコクチさん、僕と一緒に暮らそうか」 ヨコクチさんが目を見開いた。 「僕はね、独りなんだ。だから独りじゃなくなりたい。 だって、せっかく働き口が見つかったんだ。ちゃんと生活したい。 それが、彩への償いになるのか......わからない。 けれど、ヨコクチさんに出会えたのは運命だと思いたいんだ」 ヨコクチさんが大きくうなづいてくれた。
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