ヨコクチさん

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「なあ、ヨコクチ。俺にはミルティさんがすべてなんだ。 だからさ、彼女にプロポーズしてみたいんだよ。 俺の作ったアクセサリーをプレゼントして」 「ティム!そこまでか!よし、おいらも案を出すぜ!」 「ありがとうヨコクチ、力をかしてくれ。 この工房は俺の命だ。ここで最高のものを作って、 彼女に贈りたいんだ」 それからティムとヨコクチは創作を始めた。 相変わらず上手く話せないティムの代わりに、ヨコクチさんが ミルティ―に話しかけた。 ヨコクチさんは犬だけど、人間の食べ物を食べられる。 ときにパン屋に買い物をしに行くようになった。 野良犬だけど、いろんな店の手伝いをして、バイトとして食べ物を わけてもらったり、小遣いをもらったりもしていた。 フワフワで甘く香ばしい香りの漂うパン屋の中で、食べたいパンは 高価だったのであきらめて、ミニチョコパンを一個だけ買った。 そしてミルティ―さんに気軽に話しかけた。 「パン屋の朝は早くて大変だね、眠気覚ましのお喋りに付き合うぜ」 「ありがとうヨコクチさん、それなら店の終わりに話したいわ。 賑やかな仕事が終わると、フッと寂しくなるのよ」 ミルティ―さんは残り物のパンをヨコクチに差し出しながら、店が 終わってから、広場の公園でたくさん話してくれた。 どんな花が好きか、どんなときが楽しいか、アクセサリーなら どんなものが好きなのか。 そしてミルティさんは魚が好きなのだと判明した。 ナカツクニは山の中にあるので海は遠い。 初めて海へ行ったときの、飛び跳ねる魚の美しさに感動したのだそうだ。 ミルティに贈るアクセサリーは魚のカタチのブローチにしようと ティムは決めた。
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