ヨコクチさん

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「ごめんなさい。受け取れません」 いつもの薄汚れた服ではなく、一張羅のスーツを着こんで 髪を切っていた。 そんなティムへと、ミルティは言い切った。 街の広場の噴水が、ティムの落ち下がる気持ちとは逆に舞い上がる。 「結婚を約束した人がいるんです。仕事で出張をしていて会えなくて、 仕事が終わって一人になると寂しくなってて、ヨコクチさんと話してた。 でも、ようやく帰ってきて、結婚もできるんです」 美しく気立てのいい娘としては、当然のことではあった。 「そうでしたか。それは良かった。お幸せに。 あ、僕のことは気にしないでくださいね。 それだけ綺麗なあなたです。振るのは一人や二人じゃないですよ」 そう言って、いくつも気遣いを発して、ティムはその場を去った。 そうして自宅で声を上げて泣いた。
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