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モース博士が二杯目のローズティーを飲み干した。
僕はヨコクチさんから渡されたハンカチで涙を拭いていた。
「街の人たちは、ヨコクチさんを独りにはしておけなかった。
喋れなくなったことも含めて、私に相談しにきた。
そこで私が引き取って、セラピストアの店員にしたんだ」
「そんな経緯が......僕のときと似てますね」
「そうだね。ヨコクチには、お茶の淹れ方とか、
菓子作りを教え込んだよ。喋れなくては店員は無理だからね。
テラスでの係をやってもらえるようにした。上手くなった」
確かにスコーンはおいしかった。
いまは、事実を知ってしまって、別の味に感じられた。
「ヨコクチも、しばらくは食事をしなかった。栄養茶を飲んでいた。
ティムの家の跡地に何度も出かけては、そこで眠っていた。
少しずつ少しずつ、時間をかけて、動けるようになった」
それは、街の人たちの励ましがあったからだそうだ。
ティムさんの作ったアクセサリーは好評だった。
もっともっと作って欲しかったと、誰もが願っていた。
みんなも少しずつ悲しみを乗り越えていったのだ。
「ティムは駆けるようにして生き抜いたのだと、
みんな思うようになった。磨かれた石の一瞬の光のように」
「だからって、だからって......死を選ぶなんて......」
「そうだね、どこまで追求しても納得なんてできない」
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