ヨコクチさん

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バスルームのドアから自宅へと戻った。 モース博士から聞いた話しに、まだ頭の整理がつかない。 だけど、ふいに思い立ち、キッチンに行って冷蔵庫を開けた。 赤月からの差し入れを取り出してみる。 中身はビーフシチューだった。 更に持ってレンジで温める。 小さな小皿にヨコクチさんのぶんもよそった。 食卓のテーブルに着いて食べてみる。 おいしかった。 僕は初めて、差し入れを完食した。 ヨコクチさんも満足気だ。 僕は赤月に電話してみた。 『なに?』 「差し入れ全部、食べれた。おいしかった、ありがとう! というか、ごめん、いつも、いつも、ありがとう! ちゃんと言えなかった、そんな僕なのに、ずっと差し入れくれて、 ありがとう、本当に、ありがとう!」 『大げさだけど、すげえ進歩。嬉しい』 「うん、まだこれからだけど、ありがとう」 『きっと、もっとよくなる』 「そうなれるといいのかな」 『そうだよ。あ、まだ仕事中だから、これで。 嫁にも言っておく、また差し入れするよ』 「うん、忙しいときに、ごめん。仕事頑張って」 こうして変わっていくことの不安は、まだ少しはある。 けれど、赤月夫妻の優しさに、本当の意味で気づけて良かったと。 僕は思った。 ――完――
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