悠乃優也

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僕は彩の落ちた二階へと上がらなくなった。 怖くて上がれなくなったのだ。 赤月は二階にあるものを何でも取ってきてくれた。 その中に彩の服があって、抱きしめて泣いた。 写真立てもあった。 彩が笑っている。 少し長めのセミショートに茶髪で、水色のワンピース。 白く細い腕、白い肌。 切れ長の目、整った鼻筋、薄い唇。 普段はクール系の美人だけど、笑うと無邪気な可愛さになる。 もう、この笑顔が、どこにもない。 世界の果てから果てまで探してもいない......。 泣く以外にすることがない。 「悠乃、おまえはPTSD、心的外傷後ストレス障害だ。 病院に行け、カウンセリングを受けろ。 俺にできることなんて限りがある」 赤月に、そう言われた。 「そうだね、赤月に頼ってばかりもいられない。 だけど、僕は立ち直って元気に生きていくなんて、できない。 僕に、そんな資格は無い」 「元気になる必要なんて、ないんじゃねえの?」 「え?」 「飯を食って、歯を磨いて、風呂に入って、寝て。 それって、そんなに罪か?」 そのとき、少しだけ、何かが開けたような気はした。 それでも気はめげていた。
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