雨男と雨女と

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 聞いたことない。雨男だからいいことあるなんて。 「雨で延期になったお陰で、日にちが変わって親が運動会を見に来れたり、雨で道が混んだから遅れて行ったらちょうどいいタイミングだったりね。  遅れていったお陰で偶然会いたかった人にも会えたりね。」 「へぇ。」 「今日だってこうして俺たちは雨のお陰で偶然、ここで話せてるし。だろ?」 「まあ…。」  確かにこの状況は最悪だけど、いつも見かける素敵なこのお兄さんとこうしてばったりバス停で会えたし、なぜかこうして話しもしてる。  だけどよりによってこんな状況。 「あ、あの、このタオル…。」  手に持っていたタオルをどうするべきか迷っていると私の手からタオルをスルリと取り上げた。 「あぁ、いいよ。あとでこれ使うし、このまま返してくれて。」 「え?でも。汚したから洗って返す…。」 「え?返すって?いつ?どうやって?」  面白がってそんな風に聞いてきた。  そう聞かれて口ごもる。 「ははは。困った顔してる。だろ?」  そうだった。あたしたち、別に知り合いでもなんでもないし。 「いいから。気にしないで?あ。バス来た。」  バスに乗り込む。  私は一番後ろの席。彼は前の方の1人掛けの椅子。  最悪な日だけど。ちょっとだけいい日だったかも。あの、お兄さんと話せたし。なんて思ってたら。  だんだんバスは混んで来ていつの間にか人で一杯だ。人に埋もれた彼の様子はわからない。どこかで降りただろうか。  駅にバスが着いて下車すると、もう彼の姿はどこにもなかった。  最後にもう一度お礼を言いたかったのに…。
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