梅雨明けは涙とともに

13/15
前へ
/15ページ
次へ
 海のすぐそばの茂みで立ち止まったふうやは、身を隠すようにして座り込んだ。私も目立たないように傘を閉じて近くの茂みに隠して、ふうやの横に座った。  茂みの隙間からは、カミサマたちが海を見て騒いでいる様子が見えた。何人かは興奮からか走り回っている。 「1番から飛び込むんだ。おれは最後。しばらく時間があるよ」  その時、カミサマの館のおじさんが声を張り上げた。 「1番! 時間だ」  わぁっと歓声が上がる。  男の子が飛び込む様子が見えて目を伏せた。 「ほら、空を見て」  ふうやに言われて顔をあげると、降り注いでいた雨粒が少しずつ小さくなっていった。どんよりと暗く空を埋め尽くしていた雲が隙間を空けて、光が差し込みはじめた。  キラキラと海面に反射する光。  青空が勢力を増して、広がっていく。  頭上の空はもう真っ青なのに、まだ完全には降り止まない細い雨が甘く輝いて、温かかった。  カミサマたちは次々に飛び込んでいく。 「おれ、小さい頃の記憶が少しだけあるんだ」  ふうやは海を見つめたままポツポツと口にした。 「父さんと母さんと姉さんがいた。最後の記憶は車の中で、ものすごく痛かった」  おじさんがキョロキョロと辺りを見回した。 「280番! 280! どこへ行った、もうすぐお前の番だぞ!」  ふうやは切なげにフッと笑った。 「バレちゃった。行かなきゃ」  立ちあがろうとするふうやの裾を掴んで止める。本当にふうやが番号で呼ばれているのを見ると、おじさんがバケモノのように見えた。  こんなの、やっぱり間違ってる。誰かの犠牲で晴れるくらいなら、毎日雨だって構わないのに。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加