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高校生にもなれば、休み時間にスマホを見ることなんて珍しくはない。
だけど桜田さんの場合は、ちょっと違っていた。
友達と見せ合うでもなく、ながら観して別のことをするでもなく、ただただスマホの画面を見つめていた。
整った鼻筋に、澄んだ瞳。
僕はそんな、君の横顔を見ているのが好きだった。
だから、スマホを見つめる君のことを見つめていた。
それで満足だった。
けれどやっぱり、そんな君に見つめられたいと思い始めた。
君をそんなに夢中にさせているのは何なのか気になった。僕も同じものを見たいし、同じものを見れば、君の目が少しは僕に向くかも。そう思った。
僕は無礼を承知で、桜田さんのスマホ画面を覗きに行った。
君が何を好きか、話すきっかけが欲しかった。
でもその結果は予想外だった。
後ろを通りながら覗き見た君のスマホ画面は、真っ黒だった。
そう。その液晶には何も映し出されてはいなかったのだ。
君のことが好きな僕ですら、ちょっと気味が悪いと思ってしまった。
――しかし数日後、その誤解はあっさりと解けた。
それは僕にとって気持ちが晴れるものではなかったけれど。
桜田さんが、斜め後ろの席の早瀬くんと付き合い始めたのだと、風の噂で耳にした。
事実、今の桜田さんはスマホを見つめてなんていない。
椅子に横向きに腰掛けながら、斜め後方の早瀬くんと楽しそうに会話をしている。
そっか。
君の画面は、決して真っ黒なんかじゃなかったんだ。
斜め後ろの早瀬くんを見つめるための、恋色の反射鏡。
君のスマホに映るのは、僕にとっての君だった。
通りすがりに覗き込むだけの僕じゃあ、そこに映ることなんて出来なかったんだ。
■おわり■
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