台風の気持ち

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台風の気持ち

 びょおおおおお。  ザァーー。  荒々しく、雨風が吹きつける。    ここは放課後の教室。  急に来た台風のせいで、帰るに帰れずクラスの半分くらいがまだ残っている。  ドドドドーーンッ! 「光ったよ、今!」 「恐いよ。カミナリ嫌ぁー」 「おい。電車止まったってよ。学校にでも泊まるかなぁ」  地響きを伴う雷鳴に、教室は大パニック!  けど、私は不謹慎ながらわくわくしていた。 (早く来い、早く来い! 台風!!)    *  私は、かわってるって言われるかも知れないけど、台風が好きだ。  激しい雨、激しい風、強い雷鳴と閃光。  憧れているのかも知れない、その力強さに……全てを壊す荒々しさに。  あっ、でも別にこの世界全部壊れてしまえっ! とか言うあぶない考えを持っているわけではない。  物を壊して欲しいわけではないんだ、多分……。  だって、毎日、何の問題もない。  平穏無事。  学校は楽しいし、両親の仲も良い。  勉強も心配ご無用、うちの学校は大学までエスカレーター式。  いいんだ、これはこれで……。  完璧な平和。  変化のない、今日。  今日と同じ、明日……。  だから、壊してほしい。  私の、心の退屈を……。  ズダドーーーン! 「キャァーー!」  カミナリの音に驚いた女子が一斉に悲鳴を上げる。  どさくさ紛れに、好きな男子にしがみつく女子もいて、教室はお祭り騒ぎ。  私は、うまくそのノリについていけない。  だって、恐くないんだもんカミナリ。    * 「お前、恐くないのか?」  見知らぬ少年が声をかける。  うちの制服を着てるけど、知らない顔だ。  だって、これだけかっこよかったら、チェック入れるもん。絶対! 「かわいくないって言いたいの?」 「誰もそんなこと言ってない」  澄んだ瞳、濡れたようなツヤのある黒髪、落ち着いた声。  神秘的な風が彼を取り巻いてる。 「あなたどこのクラス? 名前は?」  私は何となく、彼に興味をもって話しかけた。  もちろん、笑顔。 「俺は、通りすがりの台風の精霊……」  げっ! スマイル取り消し、こいつ危ない奴だ。  さわらぬ神に祟りなし!  お近づきにならないほうが懸命?! 「……外に出てみないか?」 「どしゃぶりだよ。本気?」  なに考えてんだろ、変なヤツ。 「恐くないんだろ。この時期の雨は暖かい大丈夫だ」  挑発するような台詞なのに、彼の瞳は落ち着いて、澄み切っていた。  こんな瞳、私は知っているような気がする、でもどこでだったろう?  強い風、強い風が私の髪を舞い上げる。  誰かが教室の窓を開けたのだ。  大騒ぎの教室、大騒ぎの私の心。  おーしぁ! その挑戦のってやる!    *  気がついたら、校庭に駆け出していた。  私だけじゃなくて、クラス全員!  激しくて、暖かい雨のせいで一瞬で、みんなびしょぬれ。  けど、みんな笑ってる、大声上げて。  私も、例外ではない。  何が面白いわけでもないんだけど、楽しいんだもん! 「これは、お祭りだからな……」 「えっ、お祭り?」 「日本列島に一番乗りした台風だけができる祭りだ」  そっか、お祭りだからこんな馬鹿なことできるんだ。大雨の中、大声上げて、駆け回るなんて素敵なこと!  私の退屈は、いつのまにか吹き飛んでいた。 「ありがとう台風さん!!」  私は、最高笑顔を彼に見せた。 「祭りはいつか終わる…、だから、思いきり遊べばいい……」    *  声が枯れるまで騒いで、気がつくと青空が広がっていた。  彼の姿は何処にもない。    けど、思い出したことがある。彼の瞳。  この雨上がりの澄んだ空気に似てたんだ!   ★ E N D ★ ****** ※ 温暖化の影響などで、最近の台風は勢力が強くて停滞する傾向があるので、大変危険ですので作中のような真似は決してしないように、ご注意ください💦      
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