黒薔薇姫

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黒薔薇姫

十歳になったロザリアは 乳母に内緒でこっそり庭園に出ていた。 ロザリアは薔薇が好きだった。だから 同じく薔薇が好きな母にこの珍しい 黒薔薇をプレゼントしたかったのだ。 そのとき、何人かの笑い声が聞こえてきた。 草花の陰から声のした方を覗くと ドレスを着た綺麗な女性と、 体格の良い身なりの整った男性、 自分と同じ年頃に見える男の子が笑い合っていた。 男の子がロザリアを指差して何かを言っている。 気のせいか、女性は険しい表情になり 男性に頭を下げて控えていたメイドに何かを告げた。 「ロザリア様、 このような場所で何をしておられるのですかっ!!」 メイドは子供に向けるには相応しくない 剣幕で怒鳴った。 「ご、ごめんなさい。わ、私、お母さんに この薔薇をプレゼントしたくて……」 ロザリアは震える声で謝った。 今までこれほど怒られることはなかった。 怒られるにしても母くらいにしか 怒られることはなかった。 メイドはふっと嘲笑した。 黒い髪に黒い瞳の姫が 黒薔薇を手にしているなんて、と。 まさに黒薔薇姫じゃないと。 離宮に戻ると、母になぜ外に出たのかと叱られた。 ロザリアは涙を流しながら謝りつつも 薔薇を差し出して 「この薔薇をお母さんにあげたくて」 と笑った。 でもなぜか薔薇を受け取りながら 母は悲しげに笑った。 「そういえば、王宮のメイドさんがわたしのことを 黒薔薇姫と呼んだの。黒薔薇姫ってどういう意味? わたしはロザリアなのに」 ふと湧いた疑問を言葉にするとリアは目を見開き 悔しそうに唇を噛んだ。 何も気にすることはない。 リアはそう言って我が子を抱きしめた。 自分の名前を半分受け継いだ可愛い我が子を。
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