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いつもの事だけど…余計に疲れていた。
仕事後の買い物に家事…それらが待っている事に、いつまでも慣れないでいた。
買い物袋を手にして、車に乗り込んでいた時、電子タバコのカートリッジの残り本数が少ない事が分かった。
「あー、分かってれば、さっき、買ったのに…。」
そんな自分にも嫌気がさしていた。
仕方なく、最寄りのコンビニに行き、車を止めてレジの後方にあるカートリッジの番号を確認していた時だった。
「あれ?名越さんじゃないですか?」
「えっ?」
振り返ると、工藤が居た。
「あぁ、工藤君。お疲れ様。」
「お疲れ様です。あぁ、カートリッジ…買いにきたんですね?」
「…そうなの。さっき、買い物したのに…分かってれば寄らなくて良かったのにね。こういうところがダメなのよ。」
「工藤君の家は近いの?」
「ここから歩いて5、6分てとこですね。」
「…そうなんだ?」
「名越さんの…あれじゃないですか?」
工藤の指差す番号を見た。
「あぁ…ありがとう。」
工藤がカートリッジを4つ購入した。
それに続き、レジの店員に番号を伝えようとした時、工藤が香織の吸うカートリッジを2つ渡した。
「えっ?」
「じゃ、明日また。」
「ちょっと…工藤君!!」
呼んでも振り返らない工藤。
香織が店を飛び出して工藤のジャケットを掴んだ。
「どうしました?」
「お金…。」
工藤は笑顔で要らないと素振りをした。
「良くないって!!」
再度、工藤のジャケットを掴んだ。
「じゃあ、明日…缶コーヒー…奢って下さい。」
工藤はゆっくりと優しく、香織の手を離した。
その感触にドキッとした。
「…え…なに?」
香織はゆっくりと車に向かい乗り込んだ。
「…なに?何を私はドキッとしてんのよ…。」
シートベルトを締め、ゆっくりと車を出した。
「あの余裕は…どこから…来るの?」
そんな独り言を言いながら車を走らせていた。
しばらく走ると信号待ちで止まり、対向車に照らされるフロントウインドウに自分顔が写し出された。と同時に工藤の言葉が甦ってくる。
"名越さんは笑ってた方が…素敵です。"
ふて腐れ気味の顔が写っていた。
「んじゃ…笑わせてよ…。」
信号が青になり、発進した。
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