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自宅に帰った時は、すでに夫も子どもも…家を出た後だった。
何もかも…そのままだった。
「…相変わらず…何もしない人達…。」
スマホを取り出した。電源が切れていた。充電器で充電し始め電源を入れると、大量のメッセージが送られてきた。
「もう…見るのもウンザリ…。」
送り主は、夫と子ども。見たくも無かった。
それらの内容を見ずに、削除した。
すぐに電話が掛かってきた。夫からだ。
迷ったが通話した。
「おい!!どこ行ってたんだよ!!ご飯も途中で投げ出し、子どもの世話も投げ出し…。」
そこまで聞いて、電話を切った。
「うるさいわ…ホント。」
そう言うとスマホを投げた。
散らかり放題の部屋…香織は敢えて、何もせず、シャワーを浴びて、着替えと化粧をしていた。
鳴り止まない電話をマナーモードにしていた。
「自分の事は…自分でやりなさい…。」
洗濯物…香織の物だけ取り出してそれを紙袋に詰め込んだ。
「帰りにもう一度洗って、乾燥機で乾かせば問題ない。」
食べた後の食器…それを眺めながら、溜息しか出なかった。
時計は8時を少し回っていた。香織は職場に電話をして病院に寄ってから行く…と嘘をついた。
「有休消化も…しとかないとね…。」
軽く洗い物だけをして、それ以外は放置した。
散らかって部屋を見回してふと、思った。
「…私が今までこういうのを見るのが嫌だったから、積極的に掃除や洗濯なんかをしてたんだよね?」
自分にそう話しかけた。
「それが…沈みかけた…泥舟ってことよね?」
工藤の言葉を思い返した。
化粧台の鏡の前に座った。
「…私は妻である前に、母親である前に…1人の女性として見られたい…。」
昨夜と早朝の工藤との感触が甦ってきた。
以前、夫に言われた言葉…
「母親なんだから…。」や「妻として…。」
そんな言葉に違和感しか無かった。
「女は…結婚したら変わってしまうの?男は…そういうところがズルい…。」
工藤は優しく自分を扱ってくれていた。母親としてでなく、人妻としてでなく、1人の女として自分を抱いてくれた事が嬉しかった。
「もう、何年も…私とヤッてない男に…とやかく言われたくない。」
そう言って立ち上がりバッグと紙袋を手に、駐車場へ向かった。
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