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工藤の口から聞いた話は…香織の涙を誘った。
若くして起業を目指した工藤が今は、一平社員となって香織の隣に居る。
「工藤君は…何も悪くないでしょ?」
涙ながらに工藤に言った。
「ワガママ勝手にやった結末が…そして、逃げる様に彷徨って今の場所に来た…そんな感じです。」
「でも、でも…目の前で飛び込むなんて…。」
「…彼女なりの覚悟…だったんだろう…そう思ってます。」
「私には…そんな覚悟…無い。」
「でも、思うんです。女性っていうのは本当に潔が良い。それに引き換え、男っていうのは女々しい生き物なんだなぁ…と思います。」
「そうかな…。」
「男は何でも欲しがる。女性はある段階で…手放したくなる…。」
香織は工藤に寄り添った。
「…私を…欲しがってる?」
「…欲しがってますね。確実に。」
「彼女の言う通り…男は欲しがるんだね?」
「…そうですね…。名越さんは?僕を欲しがってますか?」
「うん。欲しい。」
「名越さんは…居なくなったり…しませんよね?」
「…居なくなる時は…列車じゃなくて…違う世界に飛び込む時かな…。」
「…違う世界…ですか?」
「…分かんないけど、言ってみただけだよ。」
そう言うと工藤は香織にキスをした。
「…もう、帰る時間ですね…。」
「そうだね…。時間って…経つの早いよね…。」
「駐車場まで、送りますから。」
「良い…。1人で行けるから。」
そう言う香織に強引に送る事にした。
「見送られると…辛くなっちゃう。」
「どうして?ですか?」
「離れたくないって気持ちが増すから。」
「数時間後にはまた、会えます。」
「その時は…何も無かった様に振る舞うのが怖くなる。」
「でも…近くには…居ますよ。」
香織が運転席のドアを開けて乗り込んだ。
その瞬間にキスをした。
「…ほら、離れたくないってなる…。」
そう言う香織に名残り惜しい様にキスをした。
工藤がドアを閉めた。
「また…後で。」
「うん…後で…。」
ゆっくりと走り出した。バックミラーに工藤がずっと立って見ていた。
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