2人の時間

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何も考えたくなかった。もう、どうでも良い…とも考えていた。 誰も来ない…車も通らない…海沿いに車を止めていた。 口から出ていた血は乾いていたが、涙は乾くどころか、増すばかり。 何気に車の時計を見た。一瞬、正気になった香織は会社に電話する為にスマホの電源を入れた。 電話をして、熱が出た…と嘘をついた。 電話を切ると、着信履歴がメッセージで流れてきた。 全て、夫からだった。 それを見るだけでまた、涙が出てきて。 「いつから…私の名前が…おいになったの?私には名前があるのに…。」 ハンドルに額を何度も打ちつけた。 ふと…工藤の話を思い出した。 10年以上も前の彼女の自殺…。 「…そういう事だったんだ…。」 呆然した香織が呟いた。 「何にも要らなくなったんだね…そっかぁ。今の私なら、彼女の気持ち…分かる気がするなぁ…。」 工藤の言葉もフェードインしてきた。 "…居なくなったり…しませんよね?" 「…ゴメン。居なくなりたい…。」 色々な感情と共にまた、泣き出した。 メッセージが届いた。 工藤からだ。 【どうしたんですか?具合…悪いんですか?】 そのメッセージに返信する。 【…大丈夫よ。ちょっとダルさがあるだけ。】 そう返信した。 「…沙有里さんだっけ?貴女みたいに、私は潔くなれないよ。やっぱり…。」 またメッセージが来た。 【…なんか…変ですよね?】 工藤は勘が鋭い。 香織は返信出来ないでいた。 すると電話が鳴った。工藤からだ。 「今…喫煙所なんですけど、どうしたんですか?」 その声でまた泣き出した。 「名越さん?どうしたんですか?」 ただ泣いているだけの香織に心配する工藤。 「言わなきゃ、分かんない。どうしたんですか?」 ようやく、香織が返事をした。 「…私、どうしたらいいか…分かんなくなってきた…。」 「今、どこに居るんですか?」 「…分かんないよ…海沿い。」 「周りに何か見えますか?」 香織は辺りを見回していた。 「…赤い灯台…。」 「…そこ、動かないでくださいよ。良いですか?」 そう言って工藤は電話を切った。 「赤い灯台なんて、どこにでもあるでしょ?来るわけないじゃない!!」 自分を責め続けた。
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