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外で喫煙していた工藤に香織が缶コーヒーを持って手渡した。
「えっ?」と工藤が不思議な顔をした。
「…さっきのお礼よ。」
「ありがとうございます。」
「…どうして、自分で作ったって言わなかったの?」
香織から貰った缶コーヒーを開け、タバコを吸いながら空を眺めていた。
「工藤君?聞いてる?」
「ええ、聞いてますよ。」
「明らかに工藤君の席に私が座ってるのって、おかしな事でしょ?その上、名越さんが作りましたって…どういう事?」
少しムキになって言う香織を少し微笑みながら、コーヒーとタバコを交互に。
「誰がやっても良いじゃないですか?」
工藤の言葉に違和感があった。
「私は何もしてない…。」
「僕は名越さんのイメージやレイアウトを聞いて、操作しただけ。」
「だから、それが工藤君が作ったデザイン…。」
吸っていたタバコは電子タバコだったのか?吸い終わると灰皿に捨てた。
「名越さんのイメージとレイアウトを聞かなければ、出来なかった。頭の中で立派に作り上げていたのは名越さんですよね?」
「そうだけど…作ったのは…。」
「言いましたよね?誰が作っても良いじゃないですか?って」
そう言うと香織から貰った缶コーヒーを飲み干した。
「これ、ありがとうございます。」
ゴミ箱に空き缶を捨て、オフィスに戻る工藤。
「誰が作ったって…って。」
納得のいかない香織。工藤の後を追ってオフィスに戻る香織。
オフィスに戻ると平然と別の仕事に取り組む工藤。
《…なんなの?この人…》
そう考えていると、資料室で近づいた工藤の顔を思い出した。
一瞬、工藤の顔を見た。何事も無かったように…仕事をしている工藤。
香織の工藤に対する印象が少し違っていく。
そんな時だった。
香織のスマホが震えた。マナーモードにしていた。
子どもからのメッセージだった。
【お母さん、今日の弁当に箸が入ってなかったよ】
《…あぁ、まただ…入れ忘れてたんだ…。》
その画面を見て頭を抱えている香織を工藤は一瞬、見た。
「ダメだなぁ…私って…」
誰にも聞こえない声で嘆いた。
慌しい朝と晩。そんな中でやり忘れる事が多々あった。
香織の元に置かれたお茶。
「えっ?」
工藤が全員にコップにお茶を注いでいた。
「お疲れ様です…」
その言葉にちょっと…救われた。
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