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「あれ?名越さんもタバコ…吸うんですね?」
喫煙所でタバコを吸っていた香織に工藤もタバコを吸い始めた。
「私も…電子タバコ。匂いがあまり、しないから。」
「そうですよね。これ…電子タバコに慣れると、紙タバコ…臭くて、口の中まで気持ち悪くなりますよね?」
そんな風に話す工藤を初めて見た。
普段は黙々と仕事をして、自分から何かを話し掛ける人だとは思わなかった。
「でも電子タバコとは言え…タバコを吸う女って…嫌い?」
香織が工藤に聞いた。
「良いんじゃないですか?」
「そうなの?ほら、女がタバコなんて!!って言う人も多いから。」
「気分転換の方法なんて、人様々でしょ?女性だから…とか、女なのに…とか、今時、時代錯誤も甚だしいですよ(笑)他の喫煙所にも、同じ様に吸ってる女性が沢山居ますよ。」
そう言って笑う工藤。初めて見た工藤の笑った顔。
《この人…幾つの顔…持ってるの?》
そんな事を思いながら、電子タバコを吸っていた香織の目の前に、工藤が缶コーヒーを見せた。
「なに?」
「この前のお返しです。」
「いや、良いよ。」
「缶コーヒー…嫌いでしたか?」
「…いや、飲むけど。」
「じゃあ、これ。」
更に勧める工藤の缶コーヒーを受け取ろうとした時、プルタブを起こして開けてくれた。
「…。」
工藤を見上げた。同じ様にタバコと缶コーヒーを交互に吸い、飲んでいる横顔。
「じゃあ…遠慮なく…。」
香織はその缶コーヒーを飲んだ。
「時々…名越さんは、スマホを見て頭を抱えてますね?」
見られていた…。
「あー。子どもの持ち物…たまに、入れ忘れたりするんだよね…。朝、バタバタしてるから。ダメだなぁ…って思ったりするの。」
ふと、自分の日常を工藤に話している自分にハッとした。何故、家庭の事を工藤に話しているのか?分からなかった。
「なんでも完璧にやろうと思うからですよ。」
「…えっ?」
「誰だって、忘れ物の一つや二つ…あるじゃないですか?」
「…まぁ…そうだけど。」
「たまには、責める自分を許してあげないと…苦しみが膨らむだけですよね?」
工藤の言葉にまた見上げた。
「名越さん。素敵なんですから…そんな顔は似合いませんよ(笑)」
「…私は…素敵なんかじゃ…。」
その言葉に苦笑いした。
「もっと笑った方が…名越さんらしくて、良いんじゃないかな?」
「もう、何言ってるのよ(笑)」
「そう!それ!」
「えっ?」
「笑うと可愛いんですね?名越さん。」
その言葉にまた、ドキッっとした。
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