第一章 小さな国

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「……三毛に土産を渡したせいか…………」 「そのようですね……しかし、俺まで夢に入るとは思いませんでした」  俺、夏目 鷹弥が三毛に渡してしまった土産は、某国のアンティークな品で、鮮やかな色をした壺だった。 「あの壺か……」 「そうかもしれません……」  何故、壺を渡したのかといえば、三毛屋が殺風景だったので壺に庭の花を入れて飾ろうと思ったのだ。俺なりの、開店祝いのつもりだった。  だが、壺が鮮やか過ぎて、野の花では不釣り合いになってしまった。そこで、どうしたものかと扱いに迷い、壺に姫様仕様のビスクドールを置いて花を持たせてみた。だが姫様は花がお嫌いだったようで、すぐに落とすと、いつの間にか酒瓶を持っていた。そして、常に鼻と頬が赤い。  俺が禁酒を言い渡すと、姫様は不貞腐れて睨み、時々脱走する。これが本当に人形なのかと疑いたくなるが、どこを調べても、動力源が分からなかったので、スイッチを切る事ができない。そこで、仕方なくワインを横に置くことで納得してもらった。  姫様は、壺を相手にワインを嗜み、生ハムの差し入れに歓喜している。そして、いつの間にか金色の皿が増えた。それは、本物の金のような気がする。金で驚いていると、今度はペットにミイラの猫を飼い始めた。  そして、その一角だけが魔境のような異様な世界になってしまった。 「三毛も、壺はさておき、夜中に笑う人形には困っていましたからね……捨てるにも、素材は何かと、過去を見てしまったのかもしれません」 「燃えるゴミだろう」  しかし、ビスクドールは陶器で出来ていたので、ビンと一緒に捨てるのか、もしくは粗大ゴミになるのかと、道原が迷っていた。 「燃やしたら、姫様が呪いそうですよ」 「そうだな……」  そこは、どこか納得できる。  そして、今、道原と夢の中にいる事も、姫様の呪いのように思える。 「夢だよな、コレ?」 「それ以外には考えられません」  昨日は夕食の後に、学校が再開しないので、家に先生がやって来るという話になり、それでは家庭教師だと盛り上がった。そして、そのまま騒いでいる内に、眠ってしまったらしい。 「眠るか?あの状態で????」 「でも、そうとしか考えられません」  やはり、姫様の呪いだろうか。
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