第三章 小さな国 三

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「…………そうか、だから夏目さんのダミーの遺体が、川に流れていたのですか……」 「そう。川で死んでいる事が、一番しっくりくるからだ」  そこには、色々な問題があるが、泳げない事を知っている連中には信憑性があった。 「それで、よく海で戦おうと思いましたね……」 「かなり必死でいいだろう」  泳いで逃げる事が出来ないので、船の上では四面楚歌のようだ。この緊張感が良い。 「砂漠に出る前に来る」 「分かりました」  俺にも色々と準備がある。  トラジャの海賊は、筏のような小さな船で静かに近づき、船を乗っ取ると舵を奪う。そして、そのままトラジャの港に移動し、積荷を降ろすと船を解放する。  抵抗しない限りは、略奪と言っても乗組員を殺す事はない。そして、船も極力壊さない。  そういうルールがあるので、アルパスも船を出すのだろう。 「そろそろ来る」  日が沈み、周囲には波音しか無くなった。しかし、耳を澄ませていれば、近づいて来る気配がある。それも多数だ。 「あの、夏目さん。抵抗すると殺されるのですね?」 「道原は静かにしていろ」  俺はトラジャの末端戦闘員の、実力を確認しておきたいのだ。  そして、船の天辺に登ると、相手の出方を観察してみた。 「まず、前方から襲撃する。しかし、本体は後方から乗り込んでいる」  船の船首から悲鳴が聞こえると、剣を交えるような衝突音がしていた。そして、花火のような爆発音もあった。トラジャは船首で騒ぎを起こしている内に、船尾から乗り込んでくる。 「アルパスも海賊対策というのか……乗組員が避難している」 「あの船長室の屋根の上で、一緒にのんびりしていてもいいのですか????」  のんびりしている訳ではない。  これはこれで、必要な位置なのだ。 「花火」 「今、花火ですか????」  これは花火と言っても、連絡用のものだ。海賊に襲われている場合は、赤い花火を三発打ち上げる。それを繰り返すとあった。  そこで、三発の花火を打ち上げると、海賊が揃って見上げていた。 「あの、位置が分かってしまったのではないですか?」 「そうだな」  しかし、この広い海の上で、こんなちっぽけな花火が鳴った所で見つけられるとは限らない。  そこで俺は改造を重ね、打ち上げ音の他に、空中での爆発音を大きくし、更に長時間光り続けるものにしてみた。 「ううむ、イマイチ」  だが、これでは光が小さすぎて、見つけて貰えるのか分からない。
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